第41話 様子がおかしい姉

~姉視点~


 美優と萌ちゃんの講義が終わる時間になったので、カフェから出て大学へ向かう。いつものようにちーちゃんと食堂前で待っていると、元気な声が聞こえてきた。


「お姉さん!千咲先輩!お待たせしました!」


「お待たせしました。講義が少し伸びてしまいまして。」


 萌ちゃんが先に駆け足でたどり着き、数秒遅れて美優も合流する。


「おかえり~。全然待ってないし大丈夫だよ。」


「おかえりなさい。アタシ達も今来たばかりだし、気にしなくていいわよ。」


「ありがとうございます!うち、お腹ペコペコです!ご飯食べましょ!」


「そうですね。私もお腹がすきました。お姉さま、行きましょう。」


 そう言いながらいつものように手を出してくる美優。


「う、うん…。」


 私もいつものように手を近づけようとするが、恋を自覚したことでなんだか恥ずかしくなってしまった。美優の手ではなく袖を指先でそっと握り、顔を俯かせる。ほっぺたが熱い。


「……?お姉さま、どうされましたか?」


「うぇ!?あっいや、その……。」


 美優が心配そうに私の顔を覗き込んでくる。


「まさか、どこか体調が悪かったりしますか?」


 私は勢いよく腕を振り、それを否定する。


「い、いやいやいや、大丈夫!!大丈夫だから!!そ、それと顔が近い…!」


 美優の綺麗な顔が近くて緊張してしまう。…ってあれ?美優の顔ってこんなに綺麗だったっけ?いや、もともと整った顔立ちではあるんだけど、なんだか今日はいつにもまして可愛いような…。


 思わず美優の顔に見とれてしまう。


「!!!……ねぇ千咲先輩、もしかして…!!」


「…あ~…まぁそうね。やっと自覚したって感じね。」


「わぁ~!!そうなんですね!!…そっかぁ!!ついにお姉さんもかぁ~!!」


 すぐ近くで目をキラキラさせた萌ちゃんと、どこかあきれた様子のちーちゃんが話しているのにも気づかずに、私は美優の顔から目をそらせずにいた。


「本当に大丈夫ですか?頬が赤いですが、どこか痛かったり気分が悪かったりはしませんか?」


 美優は不安そうな表情でそっと私の頬に手を添える。ひんやりとした手の感触によって、私はより強い羞恥心に襲われた。


「~~~~~!!!!!ほんとに大丈夫だから!!ほ、ほら、皆お腹すいてるんでしょ!?早くご飯食べよ!!」


 真っ赤な顔でどうにかごまかして、食堂へと皆を急かす。心臓がバクバク言ってる。


「はぁ…あれじゃ先が思いやられるわね…。」


「あはは…初心なところも魅力の一つではありますけどね…。」



―――――


 お昼を買い、いつものように美優と隣り合って席に着く。普段は肩や太ももがぴったりとくっ付くくらい近かったが、今日は間にこぶし三個分の距離が空いている。


「………お姉さま、なんだか遠くないですか?いつものようにもう少しこちらに詰めてください。」


「えっ、い、いや~、いつもこのくらいの距離じゃない?ね、そうだよね二人とも?」


 私は必死にウィンクをして二人に同意を促す。


「さぁ?いつもはもう少し近かったんじゃないかしら。」


「そうですね!もっと近かったと思います!」


 泣いた。どうやらここに私の味方はいなかったらしい。


「お二人もこう言ってますし、こちらに寄ってください。」


 美優が私を近づけようとし、私の腰に手を添える。


「ひゃぁ!!」


 いつもより敏感になっている私は変な声を上げたが、美優は気にせず体を寄せる。結局、いつもみたいに密着する距離感になってしまった。心臓の音が届いていないか不安になる。


「今日のお姉さまは本当にどうしたんですか?なんだか様子がおかしいですよ?」


 私は自分のことでいっぱいいっぱいになってしまい、答えることができなかった。


「………はぁ~、本当に世話が焼ける…。ねぇ美優、陽菜の様子は気にしないであげて。今日はちょっと大きい出来事があって、心に余裕がなくなってるだけだから。数日もしたら元に戻るんじゃないかしら。」


 ため息をついたちーちゃんが私に助け舟を出してくれた。ち、ちーちゃんありがとう……!!


「なるほど、そういうことでしたか。それならお姉さま、なにかあれば私になんでも相談してくださいね。全身全霊でお助けしますから。」


 そう言って微笑む美優。


 は?好き。私を今以上好きにさせてどうするの??責任とってもらうよ???


「あ、ありがとう。もしもの時は責任とって…じゃなくて助けてもらうね。」


「はい。いつでもどうぞ。」


 そのあとはいつもみたいにとは言えないが、ある程度落ち着くことができた。




 それにしても、恋を自覚しただけでこんなにも調子が狂うとは…。

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