第28話 大親友を持った妹
〜妹視点〜
お姉さまとのデートから数日経ったある晴れた日の休み時間。私と萌さんは中庭でベンチに座り、先日のデートについて話していた。
「―――という流れで、頬ではありますがキスをすることができました。」
「わぁ!!美優ったら超大胆じゃん!!んでんで、お姉さんの反応はどうだった?」
萌さんは目をキラキラさせて、続きが気になる様子。
「顔を真っ赤にして混乱していました。」
「あははっ!想像つくなぁ〜。初心な反応がカワイイんだろうなぁ。」
「それはもう愛らしかったです。色々と教えてくださった先輩方には感謝しないとですね。」
実は千咲さんを筆頭に、同好会の先輩方から様々なシチュエーションやアピールの仕方を日々教えてもらっている。
先日の試着室の一件や頬へのキスはいつの日かに教えてもらったことを自分なりにアレンジして実践したのだ。
「うち的にはあのアドバイスがほんとに役立つのか疑心暗鬼だったけど、活かせたのならよかった!!」
「そうですね。流石にらっきーすけべ?について熱弁された時はドン引きしましたが。」
「あれはないよねぇ〜。普通にセクハラじゃんって。」
千咲さんがその先輩の熱弁を途中で止めてくれて本当によかった。あれは全員がドン引きしていたと思う。
「いや〜、それにしてもお姉さんに対する愛が大きいね!BIG LOVEじゃん!!」
「それは当然です。お姉さまを世界で一番愛しているので。」
「わぁ〜!聞いてるこっちが恥ずかしくなってきちゃう!!でもいいね、そんくらい好きだって言える存在がいるのは!!」
「そんなお姉さまが一緒にいてくださるので、私は本当に幸せ者だと思います。……ただ、時々不安になるんですよね。実はお姉さまに嫌がられているんじゃないかとか、迷惑しているんじゃないかとか。」
思わず弱音がこぼれてしまう。口に出したことによって、今まで心の奥底にしまっていた不安が顔を出してきた。
私は高校生の時、恋愛のごたごたに巻き込まれて散々な目にあった。他人からの好意を全て不意にし、それによって親しかった人が離れていった。お姉さまに恋をした今ならわかる。それがどれだけ残酷なことだったのかを。そんな私がお姉さまを好いていても迷惑なんじゃないかって思ってしまう。
「そもそも世間一般からして、妹が姉を愛してるなんて言うのはおかしいことですし。それに―――」
「はいスト〜プ!!」
バチンと、萌さんが私の頬を挟み込むように両手で押さえてきた。ちょっと痛い。
「なにふるんへふか?」
ジトーっとした目で萌さんを見つめる。
「ふへへっ、変な顔…じゃなかった。こほん。…えっと、確かに不安な気持ちもわかるよ?ひどいこと言っちゃうと、世間一般から見ておかしいというのも否定はできないね。それに、なかなか前途多難な道を歩んでるのも確かじゃん?それでも―――」
一呼吸置いた萌さんがまっすぐな瞳で私を射貫く。
「美優が自信を持たなきゃ、絶対にお姉さんと一つになる未来は無いよ。いつも美優が言ってんじゃん。私は絶対にお姉さまと結ばれるんだって。将来はお姉さまとこういうことがしたいとか、将来はお姉さまとこういう風になりたいとか、まるで結ばれる前提で話してんじゃん。お姉さんとくっ付く将来を信じて疑わない美優はどこ行っちゃったのさ。それとも、美優の想いはその程度だったの?」
そんなわけない。私はお姉さまを誰よりも、世界で一番愛しているんだ。誰にもこの想いは邪魔させない。
「…いえ、そんなわけありません。先ほども言った通り、私はお姉さまを世界で一番愛しています。」
「でしょ?だったらいつも自信を持ってなきゃ。自分を信じてグイグイ行かなきゃ。実はお姉さんに嫌がられてるんじゃないか?ないない。嫌なら嫌そうな顔するでしょ。お姉さんが迷惑しているんじゃないか?ありえないありえない。迷惑なら美優に近づかないでしょ。外から見てて、お姉さんが一番近くにいるのは常に美優だよ?しかもずっと笑顔で接してるし。」
萌さんは一時も私から目を逸らさない。
「愛の形なんて人それぞれじゃん?正解なんてないんだから。だからね美優、自信をもって。自分を疑っちゃダメ。美優なら大丈夫だから。他ならぬ大親友のうちが保証してあげる。めっちゃ心強いっしょ?」
そう言ってニヒッと笑う萌さん。白い歯がまぶしい。
心が軽くなるのが分かる。そして、お姉さまと一緒の時とは別の温かい気持ちで、心が満たされる。
「…ありがとうございます。とても心強いです。そして、心が軽くなりました。萌さん…いえ、萌のおかげです。萌が大親友で良かったです。改めて、本当にありがとうございます。」
勇気を出して萌の敬称を外す。人生で初めて他人の名前を敬称なしで呼んだ気がする。大親友に敬称は必要ないだろう。
「!!!…ふふっ。うん、ならよかった!!ふぅ~、柄にもなく真剣な話をしちゃったから疲れたな。…ねぇねぇ、次の講義さぼっちゃわない?」
「ダメですよ。お姉さまが心配してしまいます。」
「あははっ、そうだね!!それじゃあ仕方ない、そろそろ講義室向かおうか!ほら行こ、美優!」
立ち上がり、こちらに手を差し出す萌。私はその手を取り、立ち上がる。
ああ、私には本当に素晴らしい大親友がいるんだな。心の底からそう思った。
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