第29話 妹とくつろぐ早朝の姉
〜姉視点〜
窓から差し込む朝日の眩しさに目が覚めた。昨日は美優とのお出かけの日だった。
体を起こし、伸びをする。
「ん~~〜〜、はぁ。」
スマホを見ると、まだ六時を回ったところだった。
「珍しく早起きしちゃったな。」
ふとデパートを出てからのことを思い出し、自分の頬に手を当てる。寝起きだというのになんだか熱い気がするし、心臓もドキドキしてる。
「ほっぺにちゅ〜された…。」
昨日はあの後から記憶がない。どうやってここまで帰ってきたのか分からない。
「美優はどうしてちゅ〜してきたの…?」
あのときは確か、今が楽しいって話をしてて、これからもよろしくねってなったのに、どうして私がちゅ〜される流れになったの…?
「人生で初めてちゅ~された…。」
美優が初めてちゅ〜したって言ってたけど、私も初めてちゅ〜された。まさか人生初のちゅ〜が妹とは思わなんだ。
「…ふぅ、落ち着け私。なにも勘違いするな。二度と変な勘違いはしないと、あの日自分に誓ったじゃないか。そもそも相手は大切な妹だぞ。」
高校生の時に起きたあの事件の日、ちーちゃんが助けてくれなかったらどんな目にあっていたか。私はあの日、二度と早とちりせずに勘違いもしないと自分に誓ったのだ。まぁそれはそれとして恋人は欲しい。
どこかにいないかなぁ!!私のことを全力で愛してくれる顔も性格も良い完璧な恋人!!
「……はぁ、用意するか。」
頭の中から馬鹿げた考えを追い出し、着替え始める。
………どんな顔して美優と会えば良いんだろう。
―――――
着替え終わった私は部屋を出て、リビングに向かう。そこでは美優がソファに座り、飲み物を片手に読書をしていた。
リビングに入ってきた私に気づいた美優はそっと本を置き、こちらに微笑む。
「…あら?おはようございますお姉さま。お早いですね。お加減はいかがですか?」
まるで昨日何もなかったかのように話しかけてくる美優に少々たじろいでしまう。
「お、おはよう美優。全然問題ないよ。すっごく元気。元気すぎて今なら走って駅まで行けちゃうくらい。」
勢いあまって変なことまで口に出した気がする。なんか恥ずかしい。
「ふふっ、そうですか。それならよかったです。でも、私はゆっくり時間を掛けて歩きたいので、走って私を置いていかないでくださいね。」
「それはもちろん。てか勢いあまって変なこと言っただけだから忘れてほしいなって…。恥ずかしいし…。」
美優から目を逸らし、ぼそぼそと伝える。また頬が熱くなった。
「他ならぬお姉さまの頼みなら忘れるしかありませんね。……はて、私達は今まで何の話をしていたのでしょう?」
とぼけて首をかしげる美優。これ幸いと私ものっかる。
「ふふふっ。なんだろうねぇ。私も忘れちゃったなぁ。いや~残念残念。」
「何かとても面白い事だった気がするのですが…。」
「いやいや、忘れちゃうってことはつまらない事だったんだよ。気にしなくて良いんじゃない?」
ああ、楽しいな。美優とこういうふざけ半分の会話をするのはとっても楽しい。
「ふふっ、そうですね。非常に惜しいですが、忘れてしまったことは仕方ありません。ではお姉さま、ご一緒に紅茶でもいかがですか?」
「是非いただくよ。となりいい?」
「もちろんです。今用意しますね。」
自分のカップを持ち、二人分の紅茶を注ぎに行った美優。なんだか拍子抜けしてしまった。もしかしたら昨日のあれは夢だったのかもしれない。
うん、絶対そうだ。そうに違いない。やだなぁ〜もう私ったら、変な夢なんか見ちゃって。あれかな?疲れてたのかな?いやぁ〜、最近頑張りすぎたかなぁ。お疲れ私。
夢だとしてもすごい夢を見てしまったことになるが、それは一旦おいておこう。
あれが夢だったことに気づいて安心した数分後、美優が帰ってきた。
「はいお姉さま、こちらをどうぞ。熱いので気を付けてください。」
「ありがとう。…ふぅ、おいしい。あったまるね。」
「朝だから味わえる贅沢ですね。だから私はこの時間が好きですし、早起きすることも出来ます。」
「なるほどねぇ。私は…まぁお布団のぬくぬくが好きだし、早起きはちょっと辛いかなって。」
私はお布団の魔力に逆らえない。私が悪いわけじゃない。ぬくぬくなお布団が悪いのだ。
「残念ですが、それなら仕方ないですね。………あっ、そうだお姉さま。」
何か思い出した様子の美優。なんだろう。
「ん~?なに~?」
「次は頬じゃなくて口にしますね。何のことか分かりますか?」
美優は流し目で蠱惑的な笑みを浮かべている。
「………へ?」
嘘…だってあれは夢なんじゃ…。
「別に今言わなくても大丈夫ですよ。今度教えてください。…ごちそうさまでした。先に部屋に戻ります。また後で呼びに行きますね。」
そのまま美優はコップを片付け、部屋に戻っていった。心臓の音がやけに大きく聞こえる。
夢じゃ…なかったの…?あれは本当に現実…だったってこと…?
私は呆然とするしかなかった。
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