第27話 姉の頬にキスをする妹

~妹視点~


 夕方になり、お姉さまにそろそろ帰ろうかと提案する。大学生の活動時間的にはまだまだ早いだろうが、家でお母さんがご飯を用意してくれている。遅くなるわけにはいかないだろう。


 デパートから出ると、雨が止んでいたことに気づく。


「いつの間にか雨が止んでいますね。」


「ほんとだ。濡れなくて良いから助かるね。」


 お姉さまと腕を組む理由が無くなるので、私は非常に困る。口には出さないが。


「そうですね。それでも水たまりはあるので気を付けてくださいね。」


 さも当然ですよという態度で腕を組みにいったが、真っ赤な顔で断られた。残念だ。でも涙目で恥ずかしがるお姉さまは可愛かったので良しとする。


 それにしても、試着室でのお姉さまの初心な反応はとても良かった。思わず下腹部がキュンとしてしまった。襲わずに耐えた私の理性を誰か褒めてほしい。


 あの時はタイミング的に、絶対に私の胸が視界に入ったと思う。背を向けたお姉さまの耳が真っ赤だったことからも、確実に見ていたと自信を持って言える。


 私の身体はお姉さまのために存在しているのだから、いつかは恥ずかしがらずに隅々まで見てほしいものだ。そして私もいつかはお姉さまの身体を隅々まで見たい。


 ……今度「朝起きたら隣で全裸の妹が寝ていた」ドッキリでも仕掛けてみようか。お姉さまはどんな反応をするんだろう。楽しみだ。


 頭の中でドッキリの詳細を詰めていると、ふとお姉さまが立ち止まった。顔が若干俯いている。


「美優、今日は楽しかった?」


 お姉さまの顔を覗くと、不安そうに揺れてる瞳が目に映った。そんな表情をしないでほしい。お姉さまにはずっと笑っていてほしいのだから。


 私はお姉さまの頬に手を当てる。


「ええ、とっても楽しかったです。」


 笑顔で本心から告げる。今日の中で楽しくなかった要素なんて一つもなかった。


「そう、それならよかった。」


 頬に添えられた手に自分の手を重ねながら、安心したような表情でほっと息を吐くお姉さま。私はお姉さまさえ一緒にいてくれるのならば、たとえ地獄であったとしても楽しいと笑顔で言えますよ。


 もちろん、今日は本当に楽しかった。無理を言ってお出かけに誘って良かったと心の底から言える。


 名残惜しいが、お姉さまの頬から手を離す。私はお姉さまの数歩前に進み、振り返りながら声をかける。


「お姉さま。」


「ん~?」


 のほほんとした表情でこちらを見つめるお姉さま。


「私は今、お姉さまのお陰でとても楽しく過ごせています。本当にありがとうございます。」


 お姉さまと出会えて本当に良かった。人生で一番幸運だったことはお姉さまと出会えたことだ。


「いやいや、それはこっちのセリフだし。そもそも私は何にもしていないよ。」


「お姉さまがそう思っていたとしても、私はお姉さまによって救われているのです。」


 自覚のないやさしさによって私が何度救われたことか。


「…そっか。まぁ美優が楽しく過ごせてるのなら良かったよ。」


 ニッコリと笑うお姉さま。


「私はお姉さまと一緒に過ごせて本当に幸せです。これからも一緒にいてくださいね。」


 お姉さまがそばにいるだけで私の胸の中は温かくなる。お姉さまもそうだと嬉しい。


「もちろん!こっちからもお願いしとくね。これからもよろしく。」


 へにゃっとした笑顔で右手を差し出してくるお姉さま。そんな表情や仕草がとても愛くるしい。愛おしい気持ちがあふれて止まらなくなる。


「はい。末永く一緒に過ごしましょうね。」


 差し出された右手を左手で上に持っていき、指を絡ませるように手をつなぐ。そのまま、お姉さまの腰に反対の手を添えて近づき、頬にキスをする。唇へのキスは付き合ったときのために取っておこう。


 一瞬の口づけの後に離れると、頬が真っ赤に染まったお姉さまが目をパチクリさせているのが分かった。ふふっ、可愛い。


「頬ではありますが、今のが私のファーストキスでした。」


 流石に少々恥ずかしく、頬が熱くなっていくのが分かる。


「あっ??へっ??い、いや、えっ???」


 刺激が強かったのだろうか。お姉さまは目をぐるぐるさせて、うわ言のように繰り返している。そんな様子のお姉さまと腕を組み、近くの公園に入る。


「そこのベンチで少々休んでから行きましょうか。」


 お姉さまの手を引きベンチに座らせる。その隣に腰をおろし、お母さんに少々帰宅が遅くなるかもしれないと連絡をする。とりあえず、お姉さまが落ち着くまではこのまま一緒に休もう。


 今日は色々なことがあった。お姉さまと食べさせあいをしたり、お互いの水着を選んだりした。そして先ほどのキス。今日だけで私達の関係に多くの進展があったのではないだろうか。少なくとも爪痕は残せたと思う。


 隣のお姉さまを見つめる。まだ落ち着かないようだ。将来的にキスは数えきれないくらいする予定である。お姉さまと付き合う日が待ち遠しい。


 お姉さまの手を取り、親指で手の甲をさする。胸の中が愛おしい気持ちでいっぱいになる。




 いつまでも一緒にいましょうね、お姉さま。

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