第24話 妹とあ~んし合う姉

~姉視点~


 特に何事もなく、無事にスイーツ店についた。まだ開店直後ではあるが、行列が出来ている。


 ってか人並び過ぎじゃね??大丈夫なのこれ??お目当てのやつ食べれる??


「めっちゃ並んでるね…。」


「そうですね…。……その……こんな行列ですし、やめときましょうか…?」


 おずおずと伏し目がちに聞いてくる美優。も~この子は…。


「ん〜ん、並ぼうよ。ケーキ食べたかったんでしょ?なら並ばないと。」


 楽しみにしていたんだし、ここで我慢されても困る。


 妹なんだから、もっとお姉ちゃんにわがまま言わなきゃ。


「…ありがとうございます。」


「うん。…最後尾はあっちだね。行こうか。」


 私たちは列の最後に並ぶ。それにしても、雨の中よくこんなに集まるね。


 列に並んでいる人たちを観察すると、二人組が大半を占めていることに気づく。…てかカップルばっかりだこれ。たまに女性同士の二人組もいるけど、ほとんどが男女ペアで並んでる。


「なんか…カップル多いね。羨ましくなっちゃうな。」


「そうですね。皆ケーキ狙いだと思います。」


「えっ、まじ?そんなに人気だとは思ってなかった。…ちなみに期間限定ケーキって何かのイベントだったりするの?」


「えっ…と…。仲良しの証明…みたいなイベントです。」


 若干目を逸らしながら告げる美優。


「仲良しの証明ねぇ…。」


 そりゃカップルも多くなるわけだ。


「まぁ私達姉妹の仲の良さもカップルに負けないくらいでしょ。ね?」


「もちろんです。………ちなみに、頼もうとしているのは小さめのホールケーキなんですが、大丈夫ですか?」


「うん大丈夫。ケーキは好きだし、いくらでも食べれちゃうよ。」


「ふふっ、それなら良かったです。ケーキを食べる時を楽しみにしていて下さいね。」


 なんだか少し違和感のある伝え方をしてくる美優。噛んじゃったのかな?


「うん。ケーキ楽しみにしてるね。」



―――――


 無事に店に入ることが出来た。美優が注文してくれている間、周りの席を見渡す。びっくりするほどカップルしかいない。


 わぁ〜…あそこのカップル「あ〜ん」してんじゃん。羨ま…んんっ、こんな場所でけしからん。もっと周りの目を気にするべき……いや周りもやってるわ。めっちゃ羨ましいな。


「お姉さま、飲み物はどうされますか?」


「えっ?あ~、紅茶でお願い。」


 美優の呼びかけが無ければリア充爆発しろって叫ぶところだった。危ない危ない。


「分かりました。では紅茶も二つお願いします。」


「かしこまりました。」


 店員さんが注文を伝えに行った。


「それで、お目当てのものは頼めた?」


「はい。なんと本日最後の一個でした。運が良かったです。」


「おおっ!日頃の行いのお陰だね。」


 よかったよかった。




「お待たせしました。こちらがジューンブライドイベント限定ケーキとなっております。お写真はどうなさいますか?」


「お願いします。」


 ケーキが届いた。デコレーションがすっごく凝ってる。なんか食べるのがもったいないな。


 てか写真?写真ってなんだろう。ケーキとのツーショットを撮ってくれたりするのかな?


「かしこまりました。ではどちらからされますか?」


「私からでお願いします。」


 そういってスマホを店員さんに渡す美優。後で送ってもらおっと。


 美優はケーキを一口サイズに掬い、私の方へ向けてきた。………んん?


「お姉さま、お口を開けてください。はい、あ~ん。」




 …えっ?…………ええっ!?


「ちょっ!美優!?」


 えっ!?どういうこと!?ケーキの写真を撮るんじゃなかったの!?なんで私はあ〜んされてるの!?!?


 てかあ~んってカップルがするもんでしょ???私達姉妹だよ???


「お姉さま。早く食べてくれないと、私の腕が限界を迎えてしまいます。」


 よく見ると、フォークを持った方の腕がプルプルしている。このままでは落として大変なことになってしまうだろう。


 自分の心臓がドキドキしてるのが分かる。他の人に聞こえてるんじゃないかって思うくらいドキドキしてる。


「お姉さま、あ~ん。」


 おそらく今私のほっぺたは真っ赤になっているだろう。恥ずかしすぎて気絶するかも。


「んっ。」


 それでも目をぎゅっと閉じ、意を決してケーキを食べる。その瞬間、スマホの撮影音が聞こえる。


「いい写真が撮れました。お連れ様は初心で可愛らしいですね。」


「そうなんですよ。私のお姉さまはとっても可愛いんです。お姉さま、美味しいですか?」


「ウ、ウン。オイシイヨ。」


 嘘。恥ずかしさで味が全然分からなかった。


「それなら良かったです。では、次はお姉さまからお願いします。」


「………え?私…から?」


「はい。お願いします。」


 そう言って目を閉じ、口を開ける美優。


 まじで私からもするのこれ???既に恥ずかしさMAXなんだけど???このままだと恥ずか死しちゃうんだけど???


 てかなんで私達はあ〜んし合うことになってるの???


 普通にケーキ食べに来たんじゃないの???


「お連れ様を待たせてしまってますよ。早くあ~んしてあげてください。」


 うだうだ悩んでいると、にやけ顔の店員さんから促されてしまった。


「わ、分かってますよ…。」


 震える手でケーキを一掬いする。正面を向くと私を待っている美優が目に入る。


 緊張で思わず唾を飲み込んでしまう。


「み、美優。はい、あ~ん。」


 美優の口にケーキをいれた瞬間、撮影音が聞こえた。


 咀嚼する美優。飲み込むと同時に目を開け、ニッコリと笑う。


「ふふっ、ありがとうございます。お姉さまが食べさせてくれたお陰でとっても美味しいです。」


「そ、そりゃよかったよ。」


「撮影ありがとうございます。いい感じに撮れましたか?」


「ええ、それはもうバッチリと。いいものを見させて頂きました。スマホをお返ししますね。…それではごゆっくりどうぞ。」


 そう言って店員さんは去っていった。


「…そ、それで美優、これはどういうこと?」


 まだ心臓がドキドキしてる。


「騙すような形になってしまい申し訳ございません。ですが、どうしてもこのケーキを食べたくて。」


 申し訳なさそうにする美優。


「そ、それでも普通に食べれば良かったんじゃないの?」


「残念ながらこのケーキはカップルしか頼めず、カップルであることの証明をしなくてはいけなかったんですよ。それがさっきのあ~んですね。お姉さまには恋人役をしていただきました。」


「カップル?でも私達は女同士だし、カップルとは言えないよ?」


 カップルとは男性と女性がなるものだ。付き合うってのはそういうもんじゃないのか。


「………お姉さま。ちょっと大事な話をしますね。あちらの席の方々をご覧ください。」


 そう言って美優がこっそりと指さした方を見てみると、女性同士できゃっきゃしながらあ~んしあっている二人組がいた。


「私達のように偽装の可能性もありますが、おそらくあの二人はカップルです。」


「えっ?でも女性同士だよ?」


「はい。それでもカップルです。」


 美優が真剣な表情で見つめてくる。


「お姉さまは勘違いしておられますが、男女だけでなく、同性でも恋愛というのはありえます。」


「………そうなの?」


「はい。無理に今納得してくださいとは言いません。ですが、そういうこともあるのだと知っておいていただきたいです。」


「…そっか。うん、分かった。覚えておくね。」


「ありがとうございます。」


 正直、まだ納得はできない。というか分からない。でも、美優が嘘をついているとは思えなかった。


 私の考え、というか感性が全て正しいとは思っていない。私とは異なる考えを知った際に、それを受け入れる心持ちが必要だ。じゃないと完璧なお姉ちゃんにはなれないと思う。


「ふぅ、真面目な話はここまでにして、続きを食べましょうか。はい、あ~ん。」


「えっ!?またあ~んするの!?」


「もちろんです。私達はカップルなので、食べ終わるまであ~んし合いますよ。」


「う、うそぉ…。」




 結局、食べ終わるまでケーキの味が分かることは無かった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る