第15話 手を繋いでいる妹と姉

〜妹視点〜


 外に出てからお姉さまの口数が少ない。それに俯きがちで人とすれ違うたびにビクッとする。


「お姉さま、下を向いて歩くと危ないですよ。」


「わ、わかってるけど…でも…。」


 お姉さまが私と繋いでいる手を見つめる。私はお姉さまの顔を見つめる。お姉さまの頬が赤い。ふふっ、可愛い。


 きっとお姉さまは姉妹関係というものに憧れを抱いてきたのだろう。言葉の端々からそう感じ取ることができた。だから私は「姉妹なら普通」という魔法の言葉を使った。


 お互いが低年齢の姉妹なら手を繋いで歩くだろうし、嘘はついていない。それに、私達も姉妹になったばかりの姉妹1年生なので何も問題ないだろう。………流石に冗談だ。


「み、美優はこのつなぎ方恥ずかしくないの?」


「何も恥ずかしくはありませんよ?」


 恥ずかしい訳が無い。たまたま…そう、たまたま手を繋いだらこうなっただけだ。別に他の意図はない。たまたまではあるが、わざわざ変える必要もないだろう。


「で、でもこのつなぎ方は恋人がやるやつじゃ―――」


「それに私はこのつなぎ方のほうが、お姉さまを近くに感じることができて嬉しいです。お姉さまは嫌でしたか?」


「そんなことは無いけどさぁ…。う~ん、私が気にし過ぎなのかなぁ。」


「そうですよ。さっきも言いましたけど、姉妹なら手を繋ぐなんて普通ですし、気にしていたらこれから疲れてしまいますよ。」


 これからもっと接触を増やすつもりなのだ。手を繋いでいるだけで疲れてしまうととても困る。


「まぁそれもそっかぁ。朝から疲れるわけにはいかないもんね。この後は講義だし。」


「…はい。早く慣れてくださいね。」


 駅に到着し、今は電車が来るのを待っている。お姉さまの赤みがかった頬は治ったが、相変わらず繋いだ手を見つめている。そして時折、手をにぎにぎして微笑む。




 ………なんだこの人は。今朝の犬のマネといい、今の仕草といい、可愛さで私を気絶させる気か?



―――――


~姉視点~


 今は駅のホームで電車が来るのを待っている。相変わらず手は繋いだままだが、頑張って慣れようとはしている。美優曰く、普通の姉妹は手を繋ぐものらしいし、それを気にして今から疲れてしまったら講義の体力が残らないだろう。


 ただでさえ病院生活で体力が落ちているというのに、今ある体力を無駄にしてしまうのは馬鹿がやることだ。私は頭がいいのでそんなことはしない。なんたって天才美少女ですから。


 それに落ち着いて考えると、美優と手を繋いでいる今の様子は、傍から見たら姉妹だと一目で分かるのではないだろうか。


 えっ、もしかしてすれ違う人がこっちを見てたのは「わぁ姉妹だぁ」って思ってたからってこと?……な〜んだ恥ずかしがる必要無かったじゃん。


 今も周りの人からはあそこに姉妹がいるって思われてたりするのかな。奥さん奥さん、隣にいる子が私の妹なんですよ。とっても可愛いでしょ?へへっ。


 ……なんだろう、急に恥ずかしさが無くなってきた。今思うと、美優が普通の姉妹がやることを教えてくれて助かったな。お姉ちゃんぶってはいるけど、姉妹で手を繋ぐことが普通なんて知らなかったし。私の妹は頼りになるね!!


 恥ずかしい恥ずかしい言ってきたけど、なんだかんだ言って美優と手をつなげるのは役得だ。お姉ちゃんで良かった。


 それにしても美優の手はすべすべだ。ちゃんとケアしているのだろう。それに、軽く握ったり広げたりしてみるととてもやわらかいことが分かる。女の人の手なんてあまり触った経験が無いから新鮮。




 私は美優の手に集中するあまり、悶えている美優に気づかなかった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る