第13話 退院する姉

~姉視点~


 やっと…やっと退院だ!本当に長かった。もう二度と入院したくない。


「退院おめでとうございますお姉さま。」


「ありがとう美優。やっと家に帰れるよ。」


 美優と二人並びながら病院の廊下を歩く。父さんと母さんは病院の外で待っているらしい。ちなみにこの後はお祝いにお寿司を食べに行く。楽しみ。


「陽菜ちゃん退院おめでとう!これ持ってって!」


「ほら陽菜ちゃん。わしのも持っていきなさい。」


「わぁおばちゃんもおじいちゃんもありがと!!二人も早く退院してね!」


 道中出会ったリハビリ部屋で特に良くしてもらった二人から、退院のお祝いにお菓子や飲み物をもらう。素直に嬉しい。他にも道すがら会う人から次々とお祝いの言葉を掛けられる。


「ふふっ、お姉さま人気者ですね。」


「ね~、嬉しい限りだよ。皆いい人ばかり。またどこかで会えると良いな。」


 胸の中がぽかぽかする。本当に良い人たちと出会うことができた。お陰でリハビリも楽しく行うことができた。退院後もまた会いたいな。


 病院のエントランスに到着すると、小さな影がこちらに向かって走ってくるのが分かった。


「お姉ちゃ~~~~~ん!!!!!!」


「おっとっと。」


 飛び込んできた有紗ちゃんを受け止める。有紗ちゃんはお腹に顔をうずめながらぎゅっと抱きついてくる。


「お姉ちゃん退院おめでとう!」


「ありがとう有紗ちゃん!お姉ちゃん嬉しい!でも走っちゃダメでしょ~?」


「は~い、ごめんなさ~い。」


 有紗ちゃんの頭を撫でる。実はこの子は少し前に退院していた。退院の際に私と離れたくないってギャン泣きしちゃったのが記憶に新しい。その時にお母さんとは連絡先を交換し、私が退院する日を伝えたのだ。でもまさかわざわざ来てくれるとは思っていなかった。


 遅れてこの子のお母さんも近づいてきたのでお礼を伝えておく。


「すみません、わざわざ来ていただいて。ありがとうございます。」


「いえいえ、この子がどうしても来たいと言ったので。それに家もすぐそこなので大丈夫ですよ。」


「そうでしたか。私としても有紗ちゃんと会えたのは嬉しいので良かったです。」


 ふと静かになった有紗ちゃんを見てみると、隣に立っていた美優を見つめていることに気づく。


「お姉ちゃんだぁれ?」


「初めまして。お姉さまの妹の美優です。あなたのお名前は?」


 美優はしゃがんで有紗ちゃんと視線をあわせながら話しかける。そっか、この二人ははじめましてか。でも流石美優。子供への対応もしっかりしてるなぁ。


「お姉ちゃんは有紗のお姉ちゃんだもん!」


 しかし、そう言って有紗ちゃんは再び私のお腹に顔をうずめてしまった。


 はぁ~~~?なんだこの子。可愛すぎないか?どうする??うちの子になる??


「なっ…違います。お姉さまは私のお姉さまです。あなたのではありません。」


 ちょっ美優!?なんでそこで張り合っちゃうの!?相手は小学生よ!?


「違うもん!お姉ちゃんは私のだもん!」


「いいえ、違います。私のお姉さまです。あとそろそろお姉さまから離れてください。あなたばかりずるいです。」


「やだ!!」


 …なにこれ私が止めに入らなきゃいけないの?私のために争わないでってやつ?わぁ…両手に花だぁ…。それぞれが小学生と妹っていう点を除けば完璧だったのに…。ってか小学生と妹って犯罪臭やべぇな。


「ちょ、ちょっと美優?相手は小学生だよ?一回落ち着いて、ね?」


「で、でも!私がお姉さまの……いえ、すみません…。流石に大人げなかったです…。」


 しゅんとしてしまう美優。も~、この子は。


「ほら、後で美優にもハグしてあげるから。」


「え!?ほ、本当ですか!?絶対ですよ!?」


 そういえば自分から美優に何かするって言ったの初めてかもしれない。


「はいはい。…それじゃ有紗ちゃん。お姉ちゃんそろそろ帰るから離れてね~。」


「やだ!お姉ちゃんと帰る!」


「う~ん…そう言ってくれるのは嬉しいけど、お姉ちゃんこの後行くところあるからさ。あとほら、お母さんと連絡先交換してるからまた会えるよ。」


「有紗、お姉さんが困ってるからそろそろ離しなさい。また会えるから。」


「そうそう。連絡くれればいつでもお姉ちゃん飛んでいくからさ。だから有紗ちゃん、また今度会おうね。」


「ぜったい?」


「うんうん、絶対。お姉ちゃん嘘つかない。」


「………わかった。約束。」


 そう言って有紗ちゃんは小指を立てる。私は自分の小指を絡める。


「はい。指きりげんまん、嘘ついたら―――」


「じゃあまたね有紗ちゃん。」


「ばいばいお姉ちゃん!」


 有紗ちゃん可愛かったなぁ。見ててキュンキュンしちゃう。これが母性本能か…。


「ではお姉さま、そろそろ行きましょう。」


「そうだね。お寿司が待ってるもんね!」


 いっぱい食べるぞ~。


―――――


 その夜。私は美優の部屋の前に立っていた。


「美優~。まだ起きてる?」


「はい、起きていますよ。今開けますね。」


 中からネグリジェ姿の美優がでてきた。


「お姉さまどうしましたか?」


「ほら、さっきした約束あるじゃん。」


「…まさか覚えていたのですか?」


「あったりまえじゃん。ほら。」


 そう言って手を広げる。


「……では、失礼します。」


「んっ。」


 美優がそーっと抱きついてきて、そのまま肩に顔をうずめる。……ちょっと恥ずかしいなこれ。


「どう?お姉ちゃんの抱き心地は。」


「…あったかいです。」


「そう。それなら良かった。」


 そのまま動かずに数分が経過した。


「……お姉さま。」


「ん~?」


「事故の件、すみませんでした。」


「まだ言うの?前も言ったけど、別に気にしてなんか―――」


「いいえ、あれは誰が見ても私が悪いです。ただ、伝えたいのはそれではなくて…。その…助けていただき、本当にありがとうございました。」


 美優の抱きしめる力が少し強くなる。


「……うん。どういたしまして。」




 それ以降お互い口を開くことは無かった。

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