第12話 所属を決める妹と安心する姉

~妹視点~


 授業が始まって数日が経った。今のところ講義の内容についていけないということもなく、大学にはすぐに慣れることが出来た。


「ねね、美優はどこに入るか決めた?」


 講義中、隣に座る萌さんがこそこそと話しかけてきた。


「どこ…とは?すみません、何の話ですか?」


「決まってんじゃん!サークルだよ!」


 サークル…。考えていなかった。


「…考えていませんでした。萌さんはどこに入る予定ですか?」


「実はうちもまだ決めてなくてさ。どうせなら美優と同じところ入りたいなって!」


「そうですね。私も萌さんと同じところに入れると嬉しいです。」


 もちろんお姉さまがいるサークルというのがゆるがない前提だが。……お姉さまはどこかのサークルに所属しているのでしょうか…?


「だよねだよね!でもうち特にやりたいこと無いんだよね~。」


「私も特にやりたいことがあるわけではありません。ただ…その……。」


 私はそこで口をつぐんでしまう。お姉さまのいるサークルに入りたいと伝えても引かれないだろうか…。


「…?どうしたの美優?」


 萌さんが不思議そうな顔をしてこちらを見ている。…引かれたら引かれたで仕方ない。それでもこれだけは譲れない。


「その…私にはお姉さまがいるのですが、もしお姉さまが何かしらのサークルに所属していたのなら私もそこに入ります。それでも大丈夫ですか…?」


 恐る恐る萌さんの顔を見てみる。


「へ~、美優にはお姉さんがいたんだ!全然大丈夫だよ!さっきも言ったけど、特にやりたいこと無いし!ってかお姉さんと会ってみたい!」


 そこにはいつも通りの萌さんの顔があった。


「…ありがとうございます。すぐにでも聞きに行きたいですが、今は入院しているので後日お伝えしますね。顔合わせも今度でお願いします。」


「えっ!?そうだったの!?ごめんね。お大事にって伝えておいて!」


「分かりました。必ずお伝えします。」


 萌さんと知り合って数日が経過したが、私は彼女に対して不快感を覚えたことが無い。価値観の違いからちょっとした言い合いになることはあるが、しっかりお互いを尊重し、話し合いの果てに収まるところに収まる。




 この人なら信じられるかもしれない。私はそう思った。



―――――


~姉視点~


「そういえばお姉さま。お姉さまは何かサークルや部活動に入っていますか?」


 退院が近くなったある日、私は美優に質問された。


「ん~、入ってるよ。非公認の方の文芸同好会。まぁ文芸と言っても書いたりするんじゃなくて、読む専門なんだけどね。」


「そうなんですね。では私もそこに入ろうかと思います。」


「いやいやいや美優さんや、もうちょいよく考えたほうがいいとお姉ちゃんは思うな~。ほら、友達と相談でもしてさ。」


 流石に迷いが無さ過ぎでは?お姉ちゃんは嬉しいけども、決めるのは色んなところ見てからでも遅くはないと思う。


「いいえ、お姉さま。私にそこ以外の選択肢はありません。友人とも既に話しています。」


「そ、そっかぁ。そこまで言うのなら止めはしないよ。実際、美優が来るのは嬉しいし大歓迎。」


 有無を言わせぬ様子の美優がちょっとだけ怖い。あ、あれかな、美優は本読むのが好きだったりするのかな~…なんて。…う〜む、夕日がさす窓辺の席に腰掛けながら読書する姿とかめっちゃ似合いそう。


「それと、その友人がお大事にと言っていました。」


「うえ!?ありがとう…なのかな?でも…うん、そっか。その子の顔見たいし、良かったら今度紹介してよ。」


「ええ是非。」


 そう言って微笑む美優。


「ありがとね。ちなみにその子はどんな子なの?」


「そうですね。名前は工藤萌で、入学式の日に知り合った子です。いつも明るくて―――」


 美優はおそらく私が入院していることでも伝えたんだろう。私のことを伝えるくらいにはその子に心を許していると思われる。その子と距離をおこうとしている様子も見られない。


 目を細めながら説明する美優の様子が目に映る。うんうん、良い関係性が築けていそうだ。色々と心配だったけど、大丈夫そうかな。入学式の件もそうだし、その子は美優の大学生活を支えてくれているんだろう。




 今度ありがとうって言わなきゃね。

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