第10話 友人ができる妹
〜妹視点〜
今日は大学の入学式だ。今は大学内のホールで椅子に座り、お偉いさんの話を聞いている。やっとお姉さまと同じ学校に通うことができる。まだ先にはなるだろうが、同じ机に座って講義を受けるという夢がかなうのだ。楽しみで仕方ない。
そして、大学では上手く立ち回る必要がある。絶対に高校時代のようになってはいけない。周囲に対する関心はあまり無いが、お姉さまに余計な心配は掛けたくない。ある程度、友人と言える仲を作っておくべきだろう。出来れば私のお姉さまに対する想いに理解のある友人を作りたい。
入学式が終わると、オリエンテーションが予定されていた。大学内の施設や履修登録の方法、卒業要件などの簡単な説明を受け、その後は参加自由の交流会が行われた。これに参加してしまったのが良くなかったのだろう。
「なぁなぁやっぱりカラオケ行こーぜ。こんな所より絶対楽しいに決まってるじゃん。」
「ほら、他にも新入生くるからさ。女の子も1人じゃ無いよ。全部先輩が驕ってあげるからさ。」
「いえ、結構です。興味ありません。」
私は先輩だというチャラチャラした2人組に詰め寄られていた。似合っていない染めた髪が目に痛いし、非常に鬱陶しい。
「いやいや、そんなこと言わないでさ。ちょっとだけでもいいから。ほら、行ってみたら気が変わるかもよ?」
「そうそう。それとここだけの話、カッコいい先輩もいっぱいいるよ。」
「別に興味ないです。私以外の方を誘ってください。」
さっきからこんな調子で断っても断っても諦めてくれない。イライラが止まらない。何度右手が出そうになったか。
こいつらはさっきから私の身体を嘗めまわすような視線で見てくる。その目をえぐりたい。そして、私の肩や腰にそいつらの気色悪い手が伸びようとしてくる。さりげなく避けたり払ったりしているが、鳥肌が立って仕方ない。触れられるのも時間の問題だろう。
本当にどうしたものか。いっそのこと胸を触られたとか言って叫び声を上げてみるか?変な注目は浴びてしまうが、こいつらに触られるよりはマシだろう。他に方法が思いつくわけでもない。諦めて声を出そうとしたとき、こちらに向けて女性の声が聞こえてきた。
「あ~!!!やっと見つけた!!!も~、何処に行ってたの?あっちでカレシ君が探してたよ!ほら、こっちこっち!」
ウィンクしながらそう言われ、右手を引っ張られる。誰だこの女は。そもそも私に彼氏なんていない。いるのは将来彼女になる予定のお姉さまだけだ。
「ちょっ誰ですかあなたは。」
「いいからいいから。こっち来て。」
後ろから「なんだよ彼氏持ちかよ。」「さっさと言えよブスが。」という声が聞こえる。…私はこの女に助けられたのだろうか。
「ふ~、ここまで来れば大丈夫かな?急にごめんね。迷惑そうにしてたから連れてきちゃった。手大丈夫?」
「いえ、お陰で助かりました。ありがとうございます。私は小倉美優と申します。あなたのお名前は?」
「うちは工藤萌。美優も災難だったね。あの先輩たちには近寄るなってSNSで話題になってたよ。知らなかった?」
そうだったのか…知らなかった。私は家族と連絡を取る以外にSNSをやっていない。必要ないだろうと思い、高校までのアカウントも消してしまった。
「そうですね…。SNSをやっていないもので、知りませんでした。」
「そっか、それじゃあしょうがないね。あっそうだ、LINEはやってる?連絡先交換しない?うちらもう友達なんだし。連絡先交換してた方がなにかと便利っしょ?」
ともだち…。
「…LINEならやっています。良いですよ、交換しましょう。」
「やった!ありがとう!実はうちもさっきまで囲まれてて、友達作れてなかったんだよね。美優を口実にして抜け出してきちゃった。」
「そうだったんですか。工藤さんも大変でしたね。」
「まったくだよもう。ナンパは求めてないっつーの。それと萌でいいよ。うちも美優って呼んでるし。」
「分かりました。では萌さんとお呼びしますね。」
「うん!出来ればさん付けとか敬語も止めてほしいけど、まっ無理強いはしないよ。」
「ありがとうございます。これは癖なのでそのままでお願いします。」
「分かった!全然だいじょーぶ!ここで得られるものはあまりなさそうだし、そろそろ帰ろうかと思うんだけど、美優はどうする?」
「そうですね、私も帰ろうと思います。」
「りょーかい!駅まで一緒に帰ろ!途中カフェにでも寄ってかない?」
「良いですよ。」
相変わらずお姉さまやお母さん以外の女性は怖い。それでも勇気を出して一歩踏み出さなければいけないだろう。困っている時に助けてくれたこの人にまで裏切られたときは、私に友人を作る資格が無かったということで納得しよう。
大学生活の大事な一日目。おそらく私は良い人と出会うことが出来た。
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