第8話 今後の方針を決める妹

~妹視点~


 お姉さまの頬から手を離し、再び手に重ねる。


 これで強いインパクトは残せただろう。こういうのは最初が肝心だと聞いたことがある。振り払われたりしなくてよかった。


 未だにお姉さまは口をぽかんとさせている。


「お姉さまどうしましたか?まさか、私に触れられるのが嫌でしたか?」


 私はお姉さまを見つめる。


「い、いや、まさかそんなわけないじゃん!ただ、ちょっと驚いただけだよ。」


「そうでしたか。それなら良かったです。」


 そう言ってニッコリ笑う。本当に良かった。ひとまずお姉さまは私に触れられても大丈夫だということが分かった。


「み、美優、ちょっと聞いていいかな?」


「はい、何でもおっしゃってくださいお姉さま。全てお答えしますよ。」


 お姉さまからの質問なら、どんなことだってお答えするつもりだ。たとえそれがスリーサイズや体重など、プライベートなことであってもだ。…いつかはお姉さまのを知るときがくるだろうか。


「…美優って、実はお嬢様学校に通ってたりする?」


「いいえ、普通の高校に通っていますよ。どうしてですか?」


 実はすでに卒業している。色々とバタバタしていてまだ伝えていなかった。早くお姉さまと同じ大学へ通いたい。


「うーんと…その…お姉さま呼びはなんでなのかなーって。」


「ああ、そういうことでしたか。それはですね、私が人生で一番尊敬している方がお姉さまだからですよ。」


 私の中での序列は最上位にお姉さま、次点で家族や私、その次にその他の有象無象となっている。だからこそお姉さまには様付けをしているのだ。


「なる…ほど?」


 お姉さまはあまり分かっていないような様子。別に今わからなくても問題ない。これから少しずつ理解していただければいいのだから。そのためにも、まずは非常に重要な質問をしなければいけない。


「そういえばお姉さま、私も1つだけとっても重要なことをお聞きしたいのですが、よろしいですか?」


 私は緊張で顔が強張るのを感じる。返答次第では今後の身の振り方を考える必要がある。


「もちろんだよ!お姉ちゃんに何でも聞いて。」


 深呼吸をひとつ。心臓の音が大きくなっている気がする。




「お姉さまは彼氏いらっしゃいますか?」


「え…。」


 時が止まったかと錯覚する。膝の上で強く握った方の拳の中が湿っていく。


「か、彼氏ってアレだよね。いわゆる男女の仲のやつ。」


「ええ、その彼氏です。」


 お姉さまには申し訳ないが、他の彼氏は知らない。


「……い、いるし~。それはもう1人や2人くらいいるし~。私モテモテだし~。あ、あたりまえじゃ~ん…。」


 お姉さまは冷や汗をたらしながら目を背ける。この反応は…。


「なるほどなるほど…。では、お姉さま。バレンタインの日に私とお出かけしたのは何故ですか?普通は彼氏と過ごすと思うのですが。」


 私は勝利をほぼ確信し、お姉さまを責める。


「そ、それは、彼氏が体調不良でまた今度にしようって…。」


 お姉さまの冷や汗が凄いことになっている。お姉さまには申し訳ないけれども、少々楽しくなっている自分がいる。ああ、お姉さま可愛い。


「…お姉さま、ちゃんと私の目を見て言って下さい。それとも、私の顔など見る価値が無いという事でしょうか…。」


 私は俯いて肩を震わせる。私は悪い子なのだろう。お姉さまなら私を心配することが分かっているのにやってしまった。良心につけ込むようで罪悪感が湧くが、どうしてもこの答えだけはお姉さまの口から聞きたかった。心の中で、今後はこのようなことを絶対にしないとお姉さまに誓う。


「彼氏いません!!嘘ついてすみませんでした!!あと美優の顔はいつまでも見ていられるよ!!!とっても可愛いよ!!!」


「いないのですね。それは良かったです。」


 ああ、よかった。神様は私の味方だ。お姉さまに悪い虫はついていなかった。それと私の顔を可愛いと言ってくれた。とっても嬉しくて思わずにやけてしまいそうになる。


「…では、恋人はいらっしゃいますか?」


 男の悪い虫がついていないことは分かった。しかし彼女がいるかもしれない。今までの反応から見るとほぼありえないとは思うが、もしいたとしたら困るので聞いておく。相変わらず聞くのは怖い。それでも情報は1つでも多い方が良い。


「…どういうこと?」


「…なるほど。すみません、間違えました。気にしないでください。」


 どうやら彼女もいないらしい。そもそも女性同士の付き合いを考慮していないのだろう。これは私が追々お姉さまの考え方を変えていくとする。


 そして、今のお姉さまはフリーだ。私はこの瞬間、神様に一番感謝した。私がお姉さまの隣に立てる可能性があるということだ。


「ごめんなさい。最後に1つだけお聞きします。今まで彼氏がいたことはありますか?」


「ありません…。もう許して…。」


「ふふっ、分かりました。ありがとうございます。」


 思わず笑みがこぼれてしまった。今まで姉に悪い虫がついたことは一度もないらしい。最高だ。神様は私のことが好きなのだろう。私にはお姉さまという心に決めた人がいるので、答えることは出来ないが。


 お姉さまには私のことだけを見て、考えてほしい。そのためには現在と過去の恋人の存在は邪魔でしかなかった。


 もし今恋人がいたとしたら、私がお姉さまと付き合える可能性はグンと低くなっただろう。また、私がお姉さまと付き合えたとしても過去に恋人がいたのなら、ふとした拍子に過去の恋人のことが頭をよぎるかもしれない。お姉さまがそういった雑念を抱くことすら私は嫌だった。




 さて、実は私がお姉さまに触れ続けているのには理由があった。それは、私からのボディタッチに対する拒否感を表情に出したり、手を振り払われないかを確認するためである。


 以前、人は継続的にボディタッチされることで次第にその人に愛情を感じるようになると本で読んだことがあった。本当かは知らないが、試してみる価値はあるだろう。…もちろん、ただただ触れていたいという理由もあるが。


 そして今日、お姉さまは私に触れられても拒否感を示さないということが分かった。現に、今まで触れた手が退かされることは無かった。


 そのため、まずはお姉さまに時折ボディタッチし、私のことを意識してもらうことを今後の方針としよう。




 方針が決まったことだし、お姉さまとやりたいことは沢山ある。これからが楽しくなりそうだ。

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