scarlet 6

 いよいよ私の騒々しい一日が始まった。

 ワトスンくんご所望の、トーストにチョコソースとマーマレードを塗ったものをそれぞれ一枚ずつ用意し、レストレードの運転する車に乗り込んだ。

 外は随分と冷え込んできていたので、重たいロングコートを羽織った。

 それに対してワトスンくんはというと、真っ白でモコモコとしたコートを羽織り、同じくらいモコモコの帽子をして、なぜかフリルのついたショートパンツを履いていた。「寒くないのかい?」と聞くと、彼は言った。「可愛いから、ヨシ!」

 ワトスンくんの妙な前向きさには感心する。思えば学生時代もそうだった、彼は中々に数学が苦手で、何度も赤点の危機に瀕していたにもかかわらず、「なんとかなる!」の一言で片づけていた。それでホントになんとかなるものだから、不思議だ。

 レスレードは車に乗るなりスマホを見ていた、誰かから連絡でもあったようだ。

「悪いがお二人さん、署に向かうつもりだったんだが、先に現場へ向かうことになった」

「構わんよ。百聞は一見に如かず、だ」

 それを聞いてレストレードは、フンと鼻を鳴らしハンドルを握った。

 エンジンの始動音は中々に静かなものだった。吹き上がりもかったるい感じで、これならひと眠りでもできそうだと思うほどだった。それも束の間の事。町中を抜けて、県道に出てすぐの事。

 アクセルを踏み込んだのか、体がガクンと前方に傾いた。それに合わせてエンジン音も大きく重いものへと変化していく。前を走る車を次々と追い越していくのだ。

「おい、レストレード!きみ・・・・・・ここ県道だが?!」

「ああん?サイレン鳴らしてんだろうが!」

「だからってこれが許されるというのか!」

「安心しろ!邪魔したやつは片っ端からしょっぴくからよ!!」

「なんてやつだ!ワトスンくん、無事かい?!」

 私は後部座席でトーストを頬張ってるであろうワトスンくんを心配し、後ろを振り返った。

「んえ?」

 が、彼は私の心配などつゆ知らず、さも当然が如くトーストを頬張っていた。チョコソースのほうとマーマレードのほう、どちらにも食べ跡があることから、交互に食べるほど余裕があるとうかがえる。

「きみってやつは・・・・・・たくましいね」

 引き気味に言ったのだがワトスンくんは、気にも留める事無く食事を再開した。

 私はというと、余裕なんてなかった。なんなら生きた心地すらも無かった。

 ふと、速度計に目をやれば、すでに時速は140キロへと到達していた。

「この時間帯のこの道路ならよお、そんなに交通量も多くねえ。そんで速度がのりやすいときたもんだ。これなら現場まで10分も掛からねえぜ」

「普段通りの運転を、心の底から頼むよ」

 普通なら体験しない速度に、私はすっかり恐怖を覚え、気づけばシートベルトを握るほどだった。

「普段通りだって?なら、サイレン鳴らしてるし、緊急走行普段通りだな!」

 ああ、神よ。不謹慎にも、人の死が関わることに興味を覚えた私を、お許しください・・・・・・

 車中で十字を切る私をよそに、レストレードの運転する車は、隣の市へと向かうのだった。

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