Scarlet 5
『ワトスン』
こちらもまた、ホームズの次に有名であろう人物である。作中では陸軍病院に勤める軍医補である。ワトソンの名称で呼ばれるのが一般的であろうが、原作にのっとりワトスンでその人物を呼んでいる。
さて、話を戻そう。
今、私たちの前に姿を現したのはその彼だ。
可愛らしいアニマルパジャマを纏い、袖の中に手をしまっている。
性別は紛れもなく男子で、そのくせに容姿はまるで女子だ。丸っこい輪郭、まん丸な目、一目見た程度ではこれを看破することは、歴戦の刑事や探偵でも不可能と言える。ほら、むかしのアニメとかであっただろう?『だが、男だ』ってやつだ。
学生時代にグレグスンの立ち上げたクラブ活動で会ったが、まあその話はまた今度。その頃から私のよき相棒として付き合っている。付き合ってると言ってもそういったものではない。
職業は奇しくも医者だ。近くの病院で内科医に勤めている。
勤め先でもその美貌が人を惑わすのか、客足が老人ばかりでさっぱりだったそこは、彼が勤めだしてから急激に患者が増えた。もちろん、男性ばかりだ。まあ、無理も無いだろう。愛くるしい笑顔で心配されようものなら、彼が男であることを知らない患者は、たちまちダメになること間違いなしだ。
そんな彼が大きなあくびをしながら私とレストレードの前に、パタパタとネコをモチーフにしたスリッパを鳴らしてやってきた。
「おあよ~、ホームズ~」
「おはようワトスンくん。客も来ているぞ」
「ん~?」
眠たい目元をぐしぐしと袖でこすり、目を凝らす。
「あ~!レストレードだ~!おあよ~」
「おう、おはようワトスン。仕事は休みか?」
「うん、休み~」
「そうか、なら、とっとと顔を洗ってこい。ちょっと大事な話がある」
「あ~い」
ワトスンくんはパタパタと駆け足気味に向かった。その背中に向かって朝食は何がいいか尋ねると、「トースト二枚にチョコソースとマーマレードがいい!」と、元気よく答えた。
「ワトスンくんも今回の件に関わらせてもいいかな?」
「おうよ、当たり前だろう?俺達はあの頃からのチームだからな」
「チームねえ?」
「ごっこ遊びだとでも思ってたのか?グレグスンは本気だったぞ?」
「ああ、そうだったな。近所の交番に『事件はありませんか?未解決で、迷宮入りのやつ』なんて聞きにいった時は、肝が冷えたぞ」
「あったな、そんなこと。で、俺達が巻き添え食って怒られたんだ」
「みんなしてグレグスンを指差して『こいつがやりました』って言ったのを覚えてるよ」
「あれ、最高だったよな。グレグスンのやつ、生徒主任にこっぴどく叱られてるの見て、笑ったわ」
レストレードとしばしの談笑をしていたところに、髪を上げてスキンケアをしながらワトスンくんがやってきた。
「ねね、なんの話し、なんの話し~?」
興味津々にワトスンくんがレストレードに詰め寄った。この光景をはたから見れば、背の高い彼氏に小さな彼女がいちゃついてるようにみえるだろうか。
「ホームズが興味を持ちそうな話さ、それで、今しがた協力してくれると快い返事をくれたところだったのさ」
「それって・・・・・・事件みたいな感じ?!」
ただでさえキラキラとした印象を与えているワトスンくんから、ひと際その輝きが増すのを感じた。
「ね!ね!それ、ボクもやっていいの?!」
私とレストレードを何度も交互に見るその顔は、期待に満ち溢れていた。
私は、呆れたように歓迎した。
「もちろんだとも、ワトスンくん」
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