scarlet 4
『レストレード』
こちらもまた、シャーロックホームズに登場する警部だ。
そしていま、私の借りている部屋に向かって、グレグスンが送ったであろうその人物が向かって来ている。階段をずかずかと、よく足音を響かせて最上階へと上ってくる。
やがてその足音は私の借りている部屋の前で止まった。そしてその人物は、ノックひとつすることなく、おもむろに部屋のドアを開けて入ってきた。
「ホームズ、起きてるか?」
「君はノックというものを知らないのか。それならインターホンも無意味だろうな。どちらも備わってるはずだ、そうだろう、レストレード?」
呼ばれたその人物、レストレードはムッと顔をしかめた。というのも彼こそ、私の旧友であり、かつては不良だったその人である。アメリカ系日本人で、髪色は金髪、しかし警察の職に就くことにあわせて黒髪に染めたが、時が経てばまた色が戻ることに辟易して、ついには染めるのをやめた。結果、現在はプリンのような頭をしている。
少々アタマにでもきたのか、レストレードは近くにあったソファに乱暴に腰をおろした。むかしからだが、彼は短気だ。
「ホームズ、悪いが冗談に付き合ってる場合じゃないんだ」
「だろうね、グレグスンからさきほど連絡があったよ」
「ならば話が早いな。ホームズ、頼みがある」
「分かってるさ、捜査の協力だろ?不謹慎かもしれないが、興味がわいた。やるよ」
「なに?ホントか?というか、すんなり答えるもんだな」
レストレードは快い返事をもらえたことに、安堵と驚きを隠せなかった。身振り手振りで、なんともアメリカっぽい仕草だった。
「引き受けてくれるならありがたいよ。なにせ、かなり厄介そうでな」
「現代科学をもってしても解決に手を焼くのかい?」
「おうよ。逆に、その科学が足を引っ張ってるように感じるよ」
ふむ、と。顎に手を当てた私は、ますますその事件への興味が色濃くなっていった。
よく刑事ドラマなんかだと、数多くの科学捜査が行われるシーンが描かれる。指紋、足跡、声紋、筆圧、毛髪などのDNA捜査、変わったものでは胃の内容物なんかでもされている。ドラマの中だけの話しかとも思われるが、実際にそうなら面白そうだ。
そういったものを生で拝めるかもしれない。そう考えると、ホントに興味がわいてしょうがない。いやはや、私も随分と図々しい。
「ところで・・・・・・あいつは?」
「あいつ?ああ、彼か。彼ならまだ寝てるんじゃないかな?今日は仕事が休みだと言ってたし」
すると、部屋の奥の角にある一室のドアが開いた。
「おっと、噂をすればだな」
中から出てきたのは、いまだに眠たげな小柄な人物だった。
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