scarlet 3
さて、話を戻そうか。
私が手に持つスマホの画面には、『グレグスン』とある。
彼に貸してもらったシャーロックホームズをきっかけに、私たちは学生時代につながりを持った。
スマホの画面を指でなぞり、通話状態にして耳にあてると、どこか気の抜けた声がした。
「やあやあホームズ、久しぶりだね」
「ああ、久しぶりだな、グレグスン」
他愛もない、何の変哲もないごく普通な切り出し。しかし、グレグスンの声色はすぐに変わった。
「ああ、ホームズ。とても急なんだがひとつ頼みがあってね」
「頼み?金か?刑事でも金に困るんだな」
「金だって?は!まさかだよ」
おどけたように返事をしたグレグスンだったが、再びその声色を変えた。どこか、重々しい声に。ほんの少しだけ、グレグスンは覚悟したように息を吸った。
「ホントは・・・・・・こんなことを、民間人の君に頼むのはダメなんだけど・・・・・・」
この時の私はまだ知る由もなかった。なぜなら、今まで彼がここまで悩むようなところを見たことも聞いたことも無かったからだ。
「随分だな。そんなに抱え込むようなことなのか?」
するとグレグスンは、今度こそと言ってきた。
「いいかホームズ、頼みたいのは・・・・・・事件の捜査協力、だ」
はっきり言って驚いた。そんなのってドラマの中だけの話だと思ってたんだ。ありえないだろ、私は・・・・・・ただの一般人だ。彼らはそれぞれ夢を持っていた。その夢の為に大学に進学して、私は高卒で勤め始める道を選んだんだ。安月給だろうが関係ない、ただ、普通に生きていければそれでよいと、ただそれだけだったのに。
しかしどうだろう。今、私のもとにやって来たこのイベントは何とする。
「正直言って驚いているよ。グレグスン、マジで言ってるのかい?」
私は部屋に置いてあるPCチェアに腰かけた。なるべく深く、落ち着くために。
「マジだ。そんで、マジでホントはダメだ」
「クビになる覚悟ってやつか?」
「いや、それはマジで勘弁してほしい」
冗談を飛ばしたつもりだったが、どうやら彼はマジで追い込まれてるようだ。
そんな事件が今の世に起きてるのかと、それに関しては興味がある。
「ホームズさ、きみ、あの本屋で本を出してるんだろう?風の噂で聞いたよ」
実は彼らにはそのことについては話したことが無い。ほら、恥ずかしいってやつさ。
「そんな君ならこういったことに、興味があるだろう?ネタってやつさ」
「グレグスン、きみ、随分と図々しくなったね」
「警察やってるとそんな風になるもんだよ」
「ぜひともそれについても取材したいね」
「まあ、いいさ。それで事件の捜査協力だけど・・・・・・無理なら断ってくれてもいい。もとより限りなく黒に近いことだからね。ただもし・・・・・・協力してくれるなら、そっちに送った彼と共に、署まで来てほしい」
「彼?ああ、あいつか」
「ああ、じゃあ頼んだよ」
そう言ってグレグスンとの通話を終えた。
丁度その時、一台の車が、私の借りている屋敷の前に停車した。
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