第3話 〝シエラ〟 【改変】
ドシャ!
「これで足りますかな?」
「⋯⋯え?」
義母の態度や高価な服装で爵位が高い事はわかっていたが、机に積まれた大量の金貨に私は驚いてしまった。
「これほどの大金、確かにお気持ちとしては十分ですわ」
見た事のないような笑顔で義母は頷きます。⋯⋯これで婚約の契約は成立、二人は書類にサインして私はオヤジに引き渡されました。
「それでは、ワシたちはこれで。ほれ、行くぞ」
「はい。父上」
その言葉を聞いて、元義母が固まります。私もこのオヤジに売られたものだと思っていましたがご子息がいるということは⋯⋯。
「いやね、ワシもそろそろ歳ですし、養子を取りましてね。いやー、息子にはもったいような娘を嫁に迎えられて何より何より」
元義母はハッとして契約書をしっかりと読み出し、義父になる男が悲しそうな顔を見して元義母を見ていました。
「ノイン、そなたは変わらないな。⋯⋯金に目が眩み、実の娘の幸せも考えられんとは」
「なっ! あなた! 知っていてワザとやったのね!?」
元義母が叫びますが、契約書は魔法で成立しており一方的な契約破棄は出来ないのです。まあ、私が売られたという事実は変わらないのですけど。
「ワシは〝どこかに良い娘はおらんか〟と尋ねただけだ。もしもそなたが実の娘を紹介してきていたら良い縁談を紹介したものを」
キ〜〜〜ッ!と悔しそうな元義母を見ていると、この義父になる男は容姿以外はとても優良物件だったようで、その息子に嫁入りすることは元義母的に私には勿体無く、実の娘を嫁に出したいほどだとわかりました。
「あぁ、この娘の価値はこの程度では失礼だったな、さらに上乗せだ。では失礼する」
ドサッと置かれた金貨が詰まった袋が二つ、この男は私を高く評価してくれているようでした。
「あの⋯⋯」
「息子の正式な婚約者となったんだ。
「では
馬車の中、私は言葉に棘を添えて質問し、それに困ったような顔で義父はポツリポツリと言葉を紡ぎ出します。
「売られた⋯⋯か、事実は違いないが⋯⋯そうでもしなければキミを⋯⋯紹介してもらえそうもなかったのでな。⋯⋯嫌な気持ちにさせて申し訳ない」
いきなり頭を下げての謝罪に私は困惑しました。確かに私はあの家では前妻の子で、義母は継母であり遠地出兵で父が亡くなってからは、3つ下の妹は実娘として可愛がられていましたが私はいないものとして扱われていました。
「頭を上げて下さい! お気持ちは十分にわかりましたから」
最初から息子の縁談で来たと言えば私は屋根裏部屋で蚊帳の外のまま、全てが終わっていただろうと考え納得しました。
「なら、あのお金はなんですか? いくら何でも多すぎではないかと」
「⋯⋯あれでもキミの価値には全然足りないよ」
「え?」
私は金額についての疑問を口にすると、私の婚約者である息子さんが初めて自分から声を出しました。
「だって、キミがあの家の家事を全部やっていたのを見てたから。メイドや料理人が足りない。人を雇うってのは凄くお金のかかる事だから。だから、それを一人でこなしていたキミは凄いんだ」
「この子、実は買い出し中のキミに一目惚れしてね。少し調べさせてもらったよ」
メイドに少しお金を渡したら色々と教えてくれたそうで、そのメイドも私を気にかけてくれていたらしく既に引き抜いたとのことです。
「そうなんですか、⋯⋯わかりました。気持ちの整理はまだつきませんけど、
それから私は正式に婚姻を結び、旦那様から溺愛されながら幸せな日々を送ります。
〝もしも〟あの時、私が旦那様に売られなければ、ボロボロになるまでこき使われて死ぬ人生か、私を人として扱わないような人の元に嫁がされていたかもしれません。それともお節介な魔女が現れて、好きでもない王子様と結婚して王妃としての重責に苦しんだ未来もありえたかも⋯⋯と今でも考えます。
「キミの灰色の髪はいつまでも美しいね」
あの家で義母から灰被りと言われた母から受け継いだ私の髪色を美しいと言ってくれる。私自身をしっかりと見てくれて、認めてくれて、愛してくれる。そんな旦那様が私は世界で一番大好きです。
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