第2話 〝シエラ〟  【原典】

「シエラ! シエラはいるかい!?」


 甲高い声で私の名前を叫ぶ女がドカドカと音を立てて二階へ、そして私のいる屋根裏部屋へと登ってくる。


「⋯⋯はい。⋯⋯義母様おかあさま

「ッチ! いるならいるでさっさと返事しな! どうして私がわざわざ───」

「ごめんない。義母様⋯⋯」

「まあいいわ。鈍臭いあなただもの、言うだけ無駄だと私も学習したわ。それにあの方を待たせているのだから早く下にいらっしゃいっ!」

「きゃっ!」


 なら私に構わないでよ⋯⋯。そう思いながらまた雑用を押し付けられるのかと身構えていると、何やら私に用がある来客がきているようで腕を掴まれて屋根裏部屋から引き摺り出されます。


「シエラ、役立たずのシエラ。喜びなさい、あなたにとって素晴らしい縁談が来てるのよ」


 義母はそう言って来賓室の扉を開けると小太りの油ぎった頭髪の寂しいオヤジと、髪を固めた若い執事の男がいた。


「お待たせしてしまい申し訳ございません。シエラは人見知りが激しい子でして⋯⋯」

「よいよい。ワシとそなたの仲ではないか」


 義母は愛想笑いを浮かべ顔を少し引き攣らせました。恐らく、過去に何かあったのでしょう。義母の事ですからお金と男女の何かが⋯⋯。


「そうそう、娘を嫁にご所望との事ですが私には娘は一人しかおらず、大事な娘なのでそれなりのお気持ちを示していただけたらなと⋯⋯」


 私はこのオヤジに売られるのだと、そう理解するのに時間はかからず、私は下を向いたまま涙を溢した。


「誰か⋯⋯、助けて⋯⋯」

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