人生について、振り返る
@cocokawaii
第1話 序章
人生について振り返る。
十八になったこの機会に、一度、半生を振り返ってみる。
高校三年生という年は、人生の中でとりわけ大きな部分を占めていると思う。推薦入試を受けた私にとって、この年は周りほど勉強に追われるような期間ではなかった。勉強の代わりに私を待っていたのは、自己推薦文だった。志望理由書に活動報告書。私が今までどんな風に人生を歩んできたのか、心の中を洗いざらい晒された。私が最も許せなかったのは、しかし、それを書く工程ではない。確かに、それらの書類を書く工程で、私は自分のしょうもない人生を見せつけられ、それは確実に今こうしてこのような文章を書いているきっかけにもなっている。しかし、私にとって最も受け入れがたかったのは、それを誰かに手渡し、私の恥が全て詰まったような文章を読まれ、人生から人格まで丸裸の無防備な状態を見られる事だった。推薦入試が決まった時、私には担当の先生がついた。木森先生は、四十近い、坊主頭で耳が異様に大きいのが印象的な男性教師だった。隣クラスの担任だというにも関わらず、それまでは噂越しでしか先生のことを知らなかった。変人。木森先生について語る生徒は、皆口を揃えて先生をそう呼んだ。しかし、それでいて木森先生の授業はとても評判が良く、特に理系男子からの支持は莫大だった。山岳部とテニス部の副顧問で、クロスカントリーやマラソンの大会の為、たまに学校を休んでは、全国各地に出向いていたそうだった。また、彼は教師でありOGで、その高校を卒業後は地元の大学の、悪評高い学生寮に入っていたそうで、そんな場所を生き抜けた事は、生徒たちの信仰心を煽る大きな要因になっていたらしい。先ほど木森先生については、噂越しでしか聞いたことがないと記したが、それは大きな間違いだった。というのも、今、思い出したところによると、私の中での先生のイメージは、そのような噂よりも、学年の最初に配られた学年冊子による影響の方がよっぽど大きかったとのである。なぜ私がそれを持っていたかという話を始めると長くなるが、とにかく私は、木森先生が担当するクラスの学年冊子をもらっていた。そこには、生徒一人一人の趣味や特技、そして軽い自己紹介が書かれていたのだが、その最後に先生の自己紹介が載っていたのだ。木森先生の特技や趣味なんて、今になっては全く思い出せない。私が覚えているのは、木森先生が自己紹介として紹介した一つの詩と、その詩が先生にもたらした影響だ。「生きる意味が分からなくなった」と、先生は記していた。私は、すぐにその詩を調べ、実際にそれを読んだ。それは確かに、面白いものだった。その詩の名前を、ここで上げることは、志望理由書を不特定多数の目に晒すことのようで、とても気持ちの良いものではない。だが同時に、この文章の中では恥を晒してでも、自らの人生について綺麗さっぱり整理整頓する、という目標を果たすために、この詩の名前を明記する事には大きな意味があるとも思うのだ。
I was born
木森先生は当初、面接担当も先生だと聞かされていた。しかし、木森先生からは、志望理由書と活動報告書、自己推薦文までもを提出するように言われた。当初、誰にも添削して貰わないまま提出しようと思っていた私にとって、それを自分以外の人間に手渡すということは、耐え難い苦痛であった。しかしそれを面と向かって言えるわけもなく、結局私は大人しく木森先生にそれらの書類を渡した。それらは、意外にも木森先生からの評価は高かった。しかし、私は高かろうが低かろうがそのように自分の書いたものについて触れられる時間を、苦痛の内に過ごした。幸運なことに、木森先生は早々に評価の部分を切り上げると、後は簡単な漢字の使い方や言葉遣いの訂正を説明した。少し拍子抜けにほっとしていたのも束の間、書類選考合格の通知が届くと、二次試験の対策の為、木森先生との面接練習が始まった。大学受験そのものが、私に人生を考え直すきっかけなのは確かだ。しかし、木森先生との面接練習は、そんな思慮を深めてくれたのだと思っている。木森先生と過ごした数日間が、私にとってとても大切なものとなることは、火を見るより明らかなのだ。
人生について、振り返る @cocokawaii
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