第4章 マレーシア・シンガポール
第31話 初日 ~熱帯の雨~
朝に日本を発ってその日の
外は土砂降りが続く合間に落雷の音まで派手に轟き外に出るのを躊躇うほどだが、迎えに来てくれたポーリィさんは、ああこんなの、と手を振って、
「すぐ止むわ」
と事も無げに言った。
熱帯は来訪者を、その激しい天候で歓迎してくれているらしい。
彼女の言葉通り、車を走らせているうち雨は小降りになってきた。だが雨のおかげか道路は大渋滞だ。二車線の筈の道路には車列が四つ
ポーリィさんは
英国風の愛称を
マレーシアに華僑は多いが無論この国に住むのは彼らだけではない。主流はマレー人ともブミプトラとも呼ばれる在来の民族で、華僑が二十パーセント強在るほか、印僑(インド系の人々)が十パーセント弱を占める。三民族が同居する多民族国家なのだ。これがマレーシアの文化を豊かにし、社会や政治経済に多様性と複雑性を生んでいる。強みにも弱みにもなるその特徴を、如何に活かし如何に超克するかがマレーシアの発展の行方を決める鍵になるだろう。
同時に
市街地を抜け海岸沿いの道に車を駐めて、人々で
雨が上がったばかりで足下はまだ
ポーリィさんは空いたばかりの
ムスリムがハラルフードしか口に出来ないとは周知の通りだが、ムスリムと非ムスリムが混在するマレーシアではその区別は常に意識される。ノンハラルの店にはムスリムは決して入らない。
これがインド人とマレー人との大きな違いだ。マレー人(ムスリム)は豚肉を食べないだけでなく、豚肉が供される店で食事をとることも出来ない。一方インド人は、自身は牛肉を食さないが、牛肉が供される店に入ることは可能だ。(
おかげで毎日大量に屠殺される鶏としては堪ったものではないかも知れぬ。とは云えものは考えようで、鶏肉にしろ鶏卵にしろ人間の食用として未曾有の大繁殖を遂げたニワトリは、種の保存・発展としてはヒトと共存共栄の道を歩んでいるとも云えよう。それは米や小麦を始めとする食用植物たちが人間の食用として各地に伝播し大地を席捲しているのと同列だろう。
無論これとて人間中心の都合のよい発想で、一羽々々の鶏にしてみれば食用に屠られる定めに生れ落ち、狭い籠に幼年から青春期を過ごした挙句の果てに突然生を断たれるのだ。
一方イスラム世界で食用の難を
詮無いことを考えているうちポーリィさんが皿を両腕に抱えて戻ってきた。
焼鳥風の串はサテー。ナッツやココナツの入った甘いタレをつける。鶏肉は端にコゲが入るほどカリカリに焼き上がっている。
蒸し鶏と米飯のセットは一名を海南鶏飯、だが今回は香辛料の薫るマレー風味なのでナシアヤムと呼ぶのが相応しい(マレー語でナシは米、アヤムは鶏)。皿についてきた赤いタレを米飯にかけ、ひと口サイズにカットされている鶏肉と混ぜ合わせて食べる。蒸された鶏肉はジューシーだ。
やはり此の国に於いて鶏肉で外れることはない。
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