第19話 六日目① ~マテ茶・パラナ松・六月祭~
昨夜遅くに肉を食べたおかげで、今朝は朝食を
マテ茶は南米原産のマテの葉や小枝から淹れる茶だ。
ビタミン・ミネラルを豊富に含み、飲むサラダとも称される。コップやポットに葉を入れて水を注ぐだけ、と飲み方は至ってシンプル。コップに入れた場合は茶
味は緑茶より幾分
茶を飲み終えて、外を見ると
陽が射しはじめたばかりの朝の街は意外なほどに冷え込んでいる。鞄の奥に眠らせた
目の前のバス専用道を、三台連結されたオレンジ色のバスが通り過ぎた。少し先のバス停には透明なアクリルの筒のような駅が置かれて、乗客が其処から乗り降りしている。乗車賃の精算はバスの乗り降りの際ではなく、駅の出入りの際に行われる。規模は小さいが、仕組みは電車の駅と同じだ。
普通に道路を通るバスもある。こちらは連結していないのが普通だ。この街には電車がない代わりに、縦横無尽にバスが往き来して市民の足になっている。
道路は道巾が広くとられて、歩道や中央分離帯には
今は丁度、ブラジルの国花イペーが花の盛りを
高層アパートの並ぶ合間に時折古びた邸宅が残っている。重たげな瓦屋根に煙突が必ずつくのは、何処の家にもシュラスコ用の
緑の庭と石の歩道とを
農業大国ブラジルでは、蟻さえも農業に勤しむのだ。
ブラジルの旅も今日が最後だ。
チェックアウトしクリスティナさんの車にスーツケースを載せる。そのあと昼食のため向かったサンタフェリシダージは
その
白亜の宮殿のような佇まいのこのレストランは一度に四千数百人もの客を容れることが出来るとしてギネス認定された(現在はその地位を他に譲った)名物店だ。週末にはその四千余席が埋まって順番待ちの列が出来るらしいが、流石に平日の今日は待たされることなく席へ案内された。
飲み物だけ注文すると、直ぐに皿が幾つも運ばれてくる。例によって食べ放題だ。
手羽先の素揚げ、サラダ、トマト、マンジョッカ(キャッサバ)フライ、チーズ。なかでも店の自慢は手羽先の素揚げだ。表面はカリカリ、それでいて鶏肉のジューシーさを損なわない絶妙の揚げ具合で、幾らでも食べられる。一皿に
そのうちペースが鈍ってくると、まだ
どうもブラジル人は食べ物を粗末に扱うことに罪悪感が希薄と見えて、大量に料理を皿に盛っておいて平気で食べ残すし、残した物は未練なく棄てるようだ。農産物に恵まれたブラジルの人々が、有史以前から度々飢饉に見舞われた記憶が社会の遺伝子に刻み込まれた日本人と感覚を同じくすることはないのかも知れない。
但し、路上生活者が飲食店から出た残り物を当てにしているらしい
ここでも料理を持って廻って客の注文に応じて給仕する店員が
「手羽先の店ですから」
と、当然と云う顔でクリスティナさんは返した。続けて、ピザ用の石窯がないレストランで美味しいピザが食べられる訳がない、と。この店で食べなくとも周囲には美味しいピザ専門店が幾らでもあるらしい。
最後の
黄金色に輝く姿は
会計を済ませていたところで、急に騒音が大きくなったと思うと外は驟雨が猛烈にアスファルトを叩いていた。暗くなった空では雷神を戴いた黒雲が不穏な音を鳴らしている。突風が樹々を揺らして、駐車場に並んだ車を横殴りの雨が乱暴に洗う。
先刻までは真っ青に晴れていた空がほんの一瞬で嵐になるとは、これも山の天気と云うものなのだろう。気紛れな天は人々を驚かせて気が済んだのか、ほんの数分
私たちは雨が小止みになるのを待って車に乗り込み、少し遠回りをして街へ向かった。車を走らせるうち次第に窓の外が明るくなってくる。
雨が上がって陽が射すと、大豆畑の上に虹が架かった。なにものにも区切られない
虹の下に広がる緑の大地に変化をつける特徴的な樹は、パラナ松だ。
真っ直ぐ伸びた太い幹の頂上のあたりで傘が開いたように枝が八方へ広がる。穀物畑や草原の中にパラナ松の立つ様子はどこかサバンナの植生を思わせるが、此処は
パラナ松は州の保護指定樹木で、枯れない限り
「松」と称しているが、この樹は実は、厳密には松ではない。とは云え杉の一種だと云うから私にすれば大差ないし、他の多くの者にとってもそれは同様らしい。きっと今後も「松」と呼ばれ続けることだろう。
ピニャオンと切り離せないのが、真冬にかかろうという時期に行われる
輪になって陽気に踊る人たちへ名物として供されるのがこのピニャオンと、甘いホットワインとケンタォン(カシャーサに生姜や砂糖を入れ
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