κατὰ πάντ' Ἄτη

chapter 13

 田利本ガリアがそこにいた目的は、断じて常盤サクラなどではなかった。


 ただ、寝ている間に出撃したシキシマ秀典の後を追って来たというだけだった。


 散乱したアーマーの破片からも、シキシマの安否は明らかだった。


 なんとなく予感はしていた。

 そもそも彼は死にに行ったようなものなのだから、それについては特に思うところはなかった。


 田利本には常盤サクラに別段思い入れはなかった。

 ただ、シキシマ秀典が執着する女というだけの認識だった。

 同様に自身の生や、まして他の大勢の生き死になど心底どうでもよかった。

 シキシマ秀典亡き今、田利本はもはや生ける屍に等しいはずだった。


 にも拘わらず、田利本の足は壊れたカプセルの中で座り込み、項垂れる少女に向けて歩みを進めた。


 その目的を、田利本ガリアは知っていた。


 彼女がシキシマ秀典の遺産だからだ。

 しかし、彼女の生はシキシマの負の遺産だ。

 彼女に近づきながら、田利本は、自分はその負の遺産を抹消することで、それをシキシマへの手向けとしようとしているのだろうと納得した。


 だが、その目的の価値を田利本は知らなかった。

 田利本は死後の世界など信じてはいないからだ。


 常盤サクラを目前とした田利本は、彼女の両脇を掴んでそっと抱きかかえた。


 田利本にとってそれは極めて不可解な行動だった。


 田利本は女に興味はなかったが、そうして触れた彼女の肉の感触に感情が揺さぶられるのを感じた。

 田利本はそれを、自分は彼女を性的に懲らしめようとしているのだと納得した。

 けれども少女を鷲掴みにするその手に、アグレッシブな力を加えることはしなかった。


 田利本はそのことに激しく困惑した。

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