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大勢の人々が同じ場所を目指して歩いていた。私は絶えず周囲を見まわした。やはり生物はいない。あるのは建物の廃墟や原型をとどめていないほどにバラバラになった車両や乱立する放射能標識を記す看板などであった。父や母はいつも食卓でしているような世間話をしていた。
やがて小さな丘を越えようとしていた。丘の頂上に着いたとき私はひとつの光景を見た。見渡す限り地平一面に墓標が整然と立ち並んでいた。砂塵が荒ぶ風で吹き荒れる荒野のなかに墓地が拡がっている。母が私の手を強く引っ張るまではその場から動けないほどに私は衝撃を受け、気圧された。
私は父と母に連れられてこの霊園の門を抜けた。開拓惑星で見られるような仮設住宅らしき施設が立ち並んでいる。その近くには宇宙服を着ていない人たちが何人もいた。彼らは槍のようなものを片手に持ち、肌は私たちと同じようであるが少し色がくすんで見えた。
「父さん、あの人たちは一体誰なんですか?」
「ああ、あれは墓守さ。この『地球』に適応した人類で、もとは私たちと同じだったんだ。だが同じ”人”には変わりはない。だからお前、決して奇妙に思ってはならないよ。むしろ礼節を以て接しなくてはね、彼らのその体質をいいように利用してこんなところに住まわせて、私たち先祖の墓の維持管理をさせているんだからね」
「父さんの言う通りよ。お前、あの人たちにすれ違うときにはしっかり感謝を示しなさいね」
父や母の言葉に私はしっかりと頷く。しかし、彼らに好奇の眼差しを向けずにはいられなかった。彼らの顔はおおむね無表情であったが、そのまなじりの奥底には私たちに対する積年の憎悪が蠢いているように思えた。しかしそのような怨恨を抱きながらも、それを上から塗りつぶしてしまうような諦めの感情が彼らを支配しているようであった。言うなれば彼らは電気羊の夢さえみないようなアンドロイドであった。そのような彼らに決して少数ではない数の人々は侮蔑と好奇の視線を向けている。私は今もなお向けているこの視線を恥じ、父の訓告を忠実に履行できなかったことに罪悪感を覚え、たまらなく居た堪れなくなった。
十数分墓の間を縫うように歩き続けて、ある墓の前にきた。墓碑銘には私の一族と代々の先祖の名前が彫られていた。私は墓石に手を触れてみる。宇宙服ごしであるからよくわからないが、ザラつきや酸性雨によって溶けている部分はないようだ。どうやらこの「地球」の過酷な環境に耐えるために特殊なコーティングないしは加工がされているらしい。墓域が綺麗に整備されているのは当然墓守のおかげであろう。
母がプラスチック製の造花を、父はケイ素ガラスのビンに詰めた酒を供える。私たちは目を瞑り、静かに手を合わせた。しかし、私には「地球」に暮らしていた遥か昔の祖先たちに思いを馳せることは難しかったし、できそうになかった。人類がこの星を捨てて宇宙に生活するようになって数百年の時が経ち、その過ぎ去った時間が私と先祖との間にもうハッキリと断裂を生じさせているのだ。私の血の起源は神話と等しく、著しく観念的で、もはや物語ることによって説明することしかできない。彼らに対してこうして祈りを捧げるのは子々孫々に対して私たちが人類たることを証明する、死者を埋葬し、その冥福と永遠の不滅を祈るという文化を継承するために他ならないし、形骸化した慣わしにすぎない。だが、そうと分かっていてもなお私たちがこうしてこの星にやってくるのはこの星と同じ蓮華の上にいるからであろう。
しばらく手を合わせた後、父が「じゃあ、いこうか」と言って私たちは帰ることにした。しかし、船は翌日出発であるため、ホテルに向かった。途中墓守とすれ違うときがあり、私たちは軽く会釈をしたが、彼らはそれに対して反応することはなく、ただ私たちを一瞥して通りすぎるだけであった。
どれくらいかかったかはわからないがホテルに着き、チェックインを済ませて部屋に入ってひと休みした後、私はひとりでホテルの外を散歩してみたいと父や母に願い出てみた。もう少し「地球」がどんなものかみたかったからだ。が、「大しておもしろいものはないし、不審者や宇宙海賊に会ったら大変だ」と言って許してはもらえなかった。そこで私は父や母が寝静まったうちにコッソリ部屋を抜け出そうと計画した。幸いにも私に割り当てられたベッドルームにはベランダが据え付けられていて、そこから外に出ることは可能であった。
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