幕間①

インターミッション 盛り塩

 鹿野かの素直すなお──という名の、演出家・不田房ふたふさ栄治えいじの相棒が、毎日のようにスタジオの扉前に盛り塩を置くようになった。最初はエレベーター前にも、という話だったのが、灘波なんばが良い顔をしなかったらしい。気持ちは分かる。このビルを建てて以降一度もそんな──盛り塩なんて、いかにも『』と周りに伝えるような行為をしてこなかったのに、今になって急に、なんて。体面を過度に気にする灘波が首を縦に振るはずがない。だが、鹿野素直も食い下がりはしなかった。自分が毎日入れ替えるから、と言ってスタジオ前に盛り塩を置き始めた。


 そんなことをして、何の意味があるっていうの?


 若くて、真っ直ぐで、そう、素直で、愚かな娘。


 私は一週間に一度、もしくは二度、彼女が置いた盛り塩を踏み躙る。壊れた皿を、溢れた塩を、彼女がどんな顔で見ているのかは、知らない。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る