第4話 《俺の家族》

《「ハル兄!帰ってきたの!?」

肩を揺らす振動で目が覚める。

目を開けると3人の子供が俺を覗き込んでいた。……もう朝か。

ふたつに結んだ髪を揺らしながら3人は飛び跳ねた。さすが3つ子、動きがシンクロしている。

「ハル兄が帰って来たよー」

ぴょんぴょん飛び跳ねながら家の中に掛けて行った。俺もその後に続いて家の中に入った。

「ただいま」

そう声をかけると、ダダダと賑やかな足音が近づいてくる。ハル兄おかえりと叫びながら子供たちが飛びついて来た。久しぶりの感覚。それでも前よりも確実に勢いを増していてバランスを崩しかける。……、何とか堪えられた。毎日の訓練のおかげかな。次までにもっと鍛えておかないと。

子供たちとじゃれあっているとオリバーが出てきた。彼はこの孤児院の院長をしている。孤児院と言っても国からの支援がある訳ではなく彼が個人で身寄りのない子供たちを育てている。俺も小さい頃にここに来てオリバーと暮らしてきた。そんな彼も歳をとり、孤児院を1人で回して行くのが大変そうだ。最年長の俺が手伝わなければと思い資金を稼ぐためにダンジョンに行ったり冒険者としてギルドに所属している。

「おかえり、少し見ないうちに大分逞しくなって」

「ただいま、オリバーは大分歳をとったね」

「はは、まだまだ元気でやってるよ。ハルトは無理していないか?」

「順調にやってるよ。これ、貯めたお金。あと種とちょっとだけど食料も買ってきたから」

お金を渡して気が付く。あれ、食料……、外に置きっぱなしだ。慌てて外に出ると子供たちが中をあさっていた。

「すごい!野菜に果物がたくさん」

「これなんの種?! なんのたね?!」

「畑にまいていい?」

楽しそうにはしゃいでいる。

「食べ物はみんなで仲良く分けること。種はオリバーに聞いてからね。これから中に運ぶからみんな手伝って」

小さい子達が果物を両手で大事そうに運ぶ。

俺も残りを抱え家に入った。


夜になり子供たちが疲れて寝静まった頃、オリバーに部屋に来るように呼ばれた。


「長旅で疲れてるのに遅くに呼び出してすまない」

「大丈夫だよ。日中は忙しくてゆっくり話せないもんね」

「旅のこと色々聞きたくてね。どこへ行ってどんなことをしていたのか、聞かせてくれないか」

ランプの光が優しく辺りを照らす。特に話すほどのことはないと思っていたが、オリバーは取り留めのない話も楽しそうに聞いていた。そのうちに俺は夢中になって話をしていた。日が昇るまであと少しというところでオリバーがふと言った。

「ハルトにはこれまでたくさん助けて貰った。面倒見のいいお前にわしらは甘えすぎてしまった。お前ももう17になる。わしらのことよりも自分の本当にやりたいことをやりなさい」

オリバーはにこりと笑って俺の頭をそっと撫でた。その手は昔と同じで暖かかった。


寝室に行くと、子供たちがすやすやと寝息をたてていた。ひとつの大きな毛布を数人で使っている。子供が増えていくに連れてどんどん狭さが増す。不自由なくのびのびと育って欲しい。心の底からそう思う。支援のない孤児院だから俺が頑張らないとと思っていた。血の繋がりなんてなくてもこの子達は大切な俺の家族だから。定期的にここに資金や食料を届けるために戻ってきたいからパーティーを組むことはできない。仲間がいたら自由がきかなくなる、だから仕方ない。迷惑をかけたくない。俺にパーティーは必要ない。大事なのは家族だから。ただ、極たまに仲間がいたらどんな感じなのか想像してしまう。背中を預けられる者がいる、それはどんな感じなのだろうか。「自分が本当にやりたいことをやりなさい」とオリバーは言っていた。その言葉が引っかかっているのは、俺は今に満足していないのだろうか。大事な家族を支えていく、俺にとっては何にも変え難い大切なことだと思っていたけど、本当は望むものがあったのだろうか。誰かのためではなく自分のために俺は何をしたいのか。

壁に寄りかかって目をつぶった。》

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