第3話 ひとりで

チャイムの音が遠くで聞こえる。目を開けると窓の外はもう真っ暗だった。下校のアナウンスが流れ、隣の教室から早く帰るよう促す先生の声が聞こえてきた。教科書をカバンに急いでしまう。席を立つと先生が扉を開けた。

「下校時間だからそろそろ帰るように」

「もう帰ります。さようなら」

そう言って教室を出た。

「蒼井、……もう暗いから気をつけて」

先生は何か言いたそうだったが、僕は振り向かず言葉を背中で受けた。


学校を出て駅まで歩く。いつものように足取りは重い。ふらふらと駅前の本屋に入り目的もなく店内をうろうろする。参考書のコーナーの近くを通ると熱心に本をめくる学生が何人かいた。この参考書はわかりやすくていい、こっちは有名な塾講師がおすすめしていたなどの会話が聞こえてくる。来年は僕も受験生か。学校では既に何度か希望進路を聞かれている。おそらく大学に行くのだろうけれど、将来何をやりたいのか、自分は何者になりたいのか全く想像できない。ただ、一人暮らしをしたいとは思う。想像できない未来に何者かになるための勉強には身が入らないけど、1人になるために、自由になるためだと思えば勉強も苦ではない。

そろそろ帰ろう。帰って勉強しよう。


のんびりと家に帰る。11月頭、夜はもうだいぶ冷えている。顔に当たる冷たい風が気持ちいい。少し遠回りをして帰ろうかな。家の近くでも知らない道は案外多い。通ったことのない道を選んで少し歩く。徐々に道も狭く、灯りもなくなってくる。少し先にポツンと灯りが集まっているところもあるけどそこまでは真っ暗。そろそろ引き返そう。

家に帰る。リビングに灯りがついていた。

いつものように義母と義弟が仲良くはなしをしている。今日は父も帰ってきているようだ。僕はそのまま自分の部屋に向かう。イヤホンをして音楽を聴きながら参考書を開いた。今日やる分をやって暗くなったリビングに向かう。テーブルに置いてある夜食を食べていると。父が入ってきた。

「椛、まだ起きてたのか」

「勉強してた」

「そうか、遅くまで頑張ってるな。……もう遅いから早く寝なさい」

「これ片付けたら寝ようと思う」

「ああ、遅くならないように」

そう言うと父は部屋に戻って行った。

食器を片付けて部屋に戻った。

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