第42話 恐ろしい悪魔ナーガ
パナ学長はバエルを見るや、一瞬“誰だ”という顔をしていた。だが面影を感じたのか、すぐに「……センティ?」と聞き覚えのない名を呼んだ。
それはきっとバエルの過去の名前だ。悪魔バエルというのは通り名のようなものだから。
「あぁ〜! なんてこと! 君はセンティなんだ〜……懐かしいねぇ。でもずいぶん姿が変わっちゃったじゃない」
「まぁ、色々あってな。お前はなんであの頃と全く変わらない? なんの実験の成果だ?」
「ん〜これは悪魔を取り込んだから、かなぁ〜。ある日から急に年を取らなくなっちゃってね〜。でもちょっとは老けておかないと周囲に怪しまれちゃうからね〜自分の皮膚いじったりとかはしてるけど、でもまだかっこいいでしょ〜?」
パナ学長はあっけらかんと真相を述べ、周囲の者に不快さを与える。
バエルは舌打ちしていた。
「相変わらず気持ち悪いヤツ……だから魔力なしってだけじゃなくて、みんなに煙たがられんだよ。百年以上経っても性格って変わらねぇんだな」
「それはセンティも同じじゃないかな〜? 昔から君は力があり、自信も実力あったからね〜……自分勝手、性悪、傲慢って陰口叩かれても平然としていたね〜……でも、さすがに“あの時”だけはクラス全員から非難されて、参っちゃったんだよね〜?」
あの時……とは? レオは問うことはできない中、パナ学長とバエルの言葉に集中する。
「君が死んだ日……その直前ではクラス全員の持ち物がズタズタにされた事件があったよね〜。みんなが教室を離れている間に……教科書も手荷物も教室に飼っていた熱帯魚も」
「そうだな、あの事件、オレが犯人だって言われてな」
バエルは平然としているが。その状況を考えると……とてもつらいのではと思う。
「あれね〜僕が『犯人は君』って言っちゃったから、そうなっちゃったんだよね〜、ごめんね〜」
なんということだ。それによってバエルは命を落としたのか。
そして憎しみを抱き、悪魔バエルに……。
「でもあれはセンティも悪いんだよ〜。力があるくせに周りに優しくしなかったから〜。だからみんな、センティを疑ったんだよ〜」
「知ってるさ」
バエルはふてぶてしく笑うと「確かに自分のせいだな」と言った。
「あの時はオレ、ガキだった。力があって当たり前、ないやつはクズだと思っていたからな」
「……ずいぶん素直だねぇ」
「そしてつい最近まで……ずっと長い間だ。オレは自分を死に追いやったヤツらが悪い、力のある人間を妬む身勝手なヤツらだと、人間の命なんて大した価値がねぇと思っていた。だが今は違う、オレが悪かったんだ……アンタも気づかされなきゃ、いつかオレみたいになってたかもしれねぇぞ」
バエルが『アンタ』と称し、見た先にはジードがいた。
「だがアンタのクラスの“ヤツら”はアンタを嫌ってはいても、陥れるようなことはしなかっただろ? そこは感謝してやれよな……そしてオレも、そいつに感謝してんだ。異常な気ぃ使い過ぎて呆れることもあるけど本当に心底いいヤツなんだ」
(バエルくん……)
レオは動かない身体をなんとかしようと試みる。動かないけど……バエルのために、あきらめてはいけない。彼を祓わなければ……あぁ、でもこの身体なら魔力があるからバエルを祓える……あぁ、でもでも――。
色々考えていた時、身体に巻き付いていたドクロムカデがシャァッと声を上げる。その途端、自分の意識がさらに遠退きそうになる、このまま消えるのではないか、そう思う。
(う……こ、こいつが、原因? 額の紋様と連動してる……?)
自分が苦しんでいる様子に気づいたのか、バエルがこちらを見る。赤い瞳が驚いたように見開いた。
「……ん、そういやあのムカデ……そうだ、思い出した! オレが死ぬ前に現れたヤツだ! 何をするでもねぇけど、笑ってやがったんだ……!」
バエルは怒りに歪んだ目を、今度はパナ学長に向けた。
「ってことは、お前なんだな。最後の最後、飛び降りようとしたけど躊躇していたオレの背中を押しやがったのは!」
「あぁ〜、あの子ね〜」
パナ学長はにんまりと笑い、今度は自身の身体に新たに発生させたムカデを巻き付けた。
「僕の取り込んだ悪魔ナーガだよ……すごいんだよ、魔力なしの僕に大きな魔力をくれたんだよ〜。そして僕はナーガの力を利用して、世の中の魔力がない人に魔法が使えるようにしようと実験中なんだ! それがついに上手くいったわけ! すごいでしょ〜! レオさんがついに望んでいた魔法を使えているんだよ〜!」
笑顔で拍手するパナ学長に合わせ、ドクロ――ナーガも骨をカタカタ鳴らして笑っているようだ。黄色い眼光が不気味だ。
「でも難点もあるみたい……まず元から魔力のある魔法使いは憎しみを抱く相手を襲いに暴走しちゃうの〜。まぁ魔力は憎しみとつながるものがあるから、魔力を与えたら憎しみが倍増しちゃうんだね〜。だからクラヴァスくんを襲った生徒達はちゃんと拘束してあるから心配しないでね〜」
クラヴァスは不愉快だと言わんばかりに舌打ちした。
「あと使えるのは純粋な人間だけで半分悪魔はダメ〜。魔力がない人へ試したのはレオさんが初めてでね〜……レオさん、どうですか〜、気分はいいですか〜?」
話を振られたが話せない。
パナ学長は笑いながら自身に巻き付いたナーガの頭をなでた。
「そろそろナーガの力が馴染んでくるから大丈夫ですよ〜。レオさんご自身の意思で動けるようになりますよ〜」
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