第33話 大切宣言です
「レオさんっ!」
自分を見るなり、廊下から現れた人物は一目散に走り寄ってきた。
「うわぁ、何っ!」
そして抱きついてきた。
「レオさんっ! 血が出てる!」
そういえば身体に針が刺さったままなのを忘れていた。というか、クラヴァスは倒れている兄より、フラフラしているバエルやフレゴより、こっちを気にしてくれるのか……申し訳ない。
クラヴァスは抱擁を解くと両手を自分の肩に乗せた。
すると肩の上が日光が当たっているかのようにあたたかくなっていく。それはジワジワと腕から身体、足に広がっていく。
それはクラヴァスの癒しの魔法だ。いつかも背中の傷を癒してくれたことがあるが、その時は気を失っていたから、わからなかった。回復魔法はあたたかいものなんだ。
「ごめんな、レオさん。ジードがやったんだろ……もう好きにはさせないって言ったのに肝心な時にいなくて、アンタの居場所がわからなくてごめんな」
肩に触れている彼の手に、わずかな力が入る。それは仕方ないのことだ、シールドで隠されていたのだから。
「ホント、最低なヤツだ……聞いても何も教えてくれない、自分勝手なヤツ。これ、レオさんがやったんだろ。なんならこのまま永久に眠らせても――」
「ダ、ダメだよっ」
慌てて制止する。そしてジードがどんな境遇にいたのかを、あくまで自分の予想だけど伝える。
ジードも孤独だっただけなのだ、と。
「……確かにな、こいつは家の中でもいつも一人だ。俺達の両親って忙しくて俺達のことなんか、かまっていなかったからな。それでもそれが他人を傷つけていい理由にはならないだろ……って俺が言い切ることもできないんだけどな」
自分も少し前までそうだったし、とクラヴァスは言う。似たり寄ったりな兄弟。
「そんな俺を変えてくれたのはアンタなんだよ」
身体の痛みが消えていく。刺さっていた針も氷のように解けて消えていた。
「だからこれからは俺がアンタを変えていくんだ、良い方向に。アンタがもっと楽しめるようにな」
なんて熱烈な言葉なんだ。聞いている方がドキッとしてしまうじゃないか。
「レオさん、一応言っておくけど、ちゃんとコイツの授業出てきたからな? だから交換条件、飲んでくれるんだろ」
「えっ……」
おずおずとクラヴァスに視線を向けると。彼はしてやったりの笑みを浮かべている。
「楽しみにしてるからさ」
顔が熱くなった。そう、さっきクラヴァスに言われたのだ。授業に出る条件として今夜――。
「うぉぉい、オレ達のこと、忘れてないかぁ」
横から声がする。呆れたように目を細めたバエルだった。
急遽現実に引き戻され、レオは慌ててクラヴァスから数歩、距離を取った。
「わっ、わっ。ごめん……と、とりあえず! もう傷は大丈夫! ありがとう、クラヴァスくんっ」
とにかく、なんやかんやをごまかすべく、クラヴァスにここであったことを説明した。クラヴァスはフレゴやジードのことは興味なさそうだったが、自分がモップで暴れたことには目の色を変えた。
「ふ~ん……それって、レオさんの掃除道具だけの力、じゃないよな」
同意するようにバエルが「そうそう」とうなずく。
「オレもさっき言いかけたけど。アンタ、魔法に対する妙な力があるんじゃね? じゃなきゃこの魔法暴走バカとか、そこの悪魔なりかけバカを静められねぇよ」
二人への呼称にバエルの悪意を感じる。さすが悪魔。
だが「そうなんだよ」と黙っていたフレゴが前に出てきた。
「モップは顔面にくらったのは、ちょっと精神的ダメージがあるけど。なんというか、スッキリしたんだ。胸の中のモヤモヤしたものが消えたみたいな……」
フレゴは周囲に視線を巡らせ、最後にクラヴァスを見て、頭を下げた。
「クラヴァス、悪かった。お前じゃなかった、俺からリネを奪ったのは……でも、もういいんだ。俺がリネの分まで生きればいい。アイツを忘れないようにすれば。そしてレオさん――」
フレゴが今度はレオに頭を下げる。
「色々ごめんなさい。多分、レオさんを殺しかけたり、めちゃくちゃひどいことしたけど。謝っても許されるものじゃないけど、ごめんなさい」
わだかまりが消えたことでフレゴも素直な青年だったのだと感じる。フレゴが明るい日差しを浴びることができたようで良かった。
そしてもう一人……。
「う、いたた……」
気絶していたもう一人が目を覚ました。仰向けのまま、青い瞳がまばたきによってパチパチと動いている。
「おい」
それに声をかけたのは彼の弟だ。クラヴァスはジードの隣にしゃがみ、ふてぶてしく笑う。
「お前の負けだ、ジード」
ジードの青い瞳は弟を捉える。
「今後この人には手を出すな。お前がなんと言おうと、この人は俺の大切な人だ。また傷つけたりしたら、今度こそ許さない。兄貴でもぶっ飛ばす、魔法で拘束して海に沈める」
兄に対してとんでもないことを言っている。自分、兄の同級生、なんだけどな。
「ククッ……大切、かぁ」
ジードが寝転がりながら身体を揺らす。顔面が薬剤で真っ白なので笑顔が少々不気味だ。
「俺も調子が変だ、なんか知らないが力が入らない……レオ、何しやがったんだ」
「な、何もしていないよ。いや、モップで攻撃はしたけど」
「ククッ、マジかよ。モップだよ……このジードさまがモップでダウンさせられたんだよ、魔力なしに、信じられないって。でもまぁ……弟がそこまで言ってんだ。俺にどうこう言えるもんじゃないよなぁ」
ジードは笑いながら「はぁ」と力を抜き、全てをあきらめたように宙を見ていた。
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