第34話 ジャンと仲良く酒を
この日はとにかく色々あり過ぎた。
いつものように酒場で酒を飲み交わし、あったことを説明するのに一時間はかかったかもしれない。
ジャンはグラスを片手に驚いたり笑ったりな百面相をしながら話を聞いてくれた。
「なんだか話題詰まりすぎて何にコメントしていいのかわかんねぇんだけど」
「それは僕もそうだよ」
「まぁ、一言言えることは良かったな〜ってことだ。なんだか知らないけど全部丸く収まったじゃねぇか。クラヴァス、フレゴ、バエル……気に食わねぇけどジードのことも。これでアイツが改心したらすげぇけど、望み薄だろうな〜。まぁ、関わりたくねぇからいいけど」
そうだね、と相づちを打ちつつ。ジードはこれからどうなるのかなと思う。自分達とは別に関わらなくてもいいが、家族であるクラヴァスとはしっかり仲を改変してほしいと思う。
自分には家族はいない。仲が悪くても何かあった時に助け合うぐらいは、してほしいなぁなんて……難しいかな。
「ジャン、フレゴくんはこの先どうなるんだい?」
「あ? どうもねぇよ」
「回答早っ」
「だって悪魔だろうが人間だろうが、ちゃんと生徒やってるからな。これからはクラヴァスとのケンカも減るだろうし。担任としては助かるけど〜?」
案外あっさりと現実を受け入れている潔さは友人として気持ち良い。
「アイツを悪魔と知ってるのは俺だけだし。別にアイツが騒ぎでもしなきゃわかんねぇだろ。それよりバエルのことは、なんかわかったのか。俺も調べたいんだけど授業もあってな、なかなか」
「酒飲む時間はあるんだね?」
皮肉を言ったら、ジャンは「それは別な」と笑った。悪びれないし、落ち込まない。その様子が逆にありがたい。自分だって余命があろうが、なんとかなると思っているから。
ジードは言っていた。聖なる力を込めたナイフと大きな魔力のことを。それによって悪魔を祓う……というか爆破して始末できるわけだが。
「はぁ、爆破とは……ずいぶん派手だなぁ。もちろん、お前のことだ。んなことしたくないんだろ」
「当たり前。バエルくんをそんな目に合わせられない」
「クラヴァスがまぁたヤキモチ焼くぞぉ〜ってか、お前どうすんの、クラヴァスのこと」
今は考えたくない言葉に、グラスを口につけようと思った手が止まる。
というか、いつからクラヴァスのことをジャンに教えたっけ……バタバタしていたから覚えていない。
「あ、あのね……クラヴァスくんは生徒だ」
「あ〜まぁな。でもアイツ、お前大好きじゃん。俺は別に生徒と教員――じゃねぇけど恋愛は良いと思うぞ。ドラマみたい、素敵〜きゃぁ〜」
ジャンは拳を握った手を胸の前でキュンとさせる妙なボーズを取っている。最近は黒い紋様のことといい、ハプニングを楽しんでいる。
「じゃあクラヴァスが卒業したらでも考えてやれば? アイツ、マジよ。わざわざ聞いてきたもん、俺に」
「何をっ」
「アンタはレオさんとどういう関係なんだって」
「――ブハッ」
口に含んではいけないタイミングで酒を飲んだら吹き出してしまった。テーブルを濡らして申し訳ないと思いつつ、おしぼりでテーブルを拭くとジャンは大笑いだ。
「アハハハ、ヤバい〜おじさん照れてるぅ」
「や、やめろよジャン!」
「良かったじゃ〜ん。一生に一度モテ期がくるってホントなんだな……って、俺は来てねぇからやっぱり嘘か」
ジャンはニヤニヤしながら、つまみの焼き鳥を口に含んだ。周囲の客がにぎやかな声や音を立てているのに、自分の頭の中にはクラヴァスの言葉が鮮明によみがえる。
『授業には出てやる。その代わり……レオさん、今夜一緒に出かけてよ。俺、こっそり寮を抜け出せるからさ。深夜零時に街中の公園にいて』
そんな交換条件を出されてしまった。肯定も否定する間もなく、クラヴァスは行ってしまい……約束通り、彼はジードの特別授業にちゃんと出席したのだ。
大人としては約束は守らざるを得ない……だが深夜に生徒を連れ出すのは本当にいいのか。
「そういやさぁ」
ジャンに言葉を投げかけられ「へっ?」と声が上擦った。ジャンは気にせず、焼き鳥を串から外していた。
「今日、上級生が二人、無断欠席してまだ見つかってないんだよなぁ」
「えっ、それって?」
「朝からいねぇんだよ、寮にも校内にも。街中で見たかもってヤツはいたが、魔力探ってもいねぇからな……また新たな行方不明事件ってヤツだな」
そう言いながらもジャンは嬉しそうだ。ちょい不謹慎だなぁと思う。
「実はそいつら、クラヴァスのこと気に食わねぇヤツらで。一回絡んでたヤツらなんだよなぁ。クラヴァスのヤツ、澄ました顔でどこかに飛ばしていたりしてな」
思い出した。そういえばクラヴァスは今朝、街中で二人の生徒に襲われている。額に黒い紋様を宿した二人に……そしてそれを飛ばした、と言っていたが。
(そ、そこは言わない方がいいんだろうか……クラヴァスがサボっていたの、ジャンにバレるわけだし)
ちょっと後ろめたいが今回はクラヴァスの肩を持っておくとしよう。
しかしそのいなくなった生徒達のことはずっと気になってしまった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます