第30話 祓い方は残酷でした

「悪魔はみんな魔力なしのところに集まってくんだなぁ。なんかへんなニオイでもすんのか? なぁ、レオ」


 その声を聞くといつも気分が悪くなる。でも今は震えている場合じゃない。

 モップを握りしめ、因縁の相手を全身に力を込めて見据える。


「ジード……二人を解放して。この二人は僕の大切な人達だ。苦しませないで」


「へぇ〜魔力なしで臆病者のレオが俺に指図するんだ? いつからお前、そんなエラくなったよ」


 ジードは右手を前にかまえた。その手からは白い霧のような光がモヤモヤと動いている。


「レオ、この二人は悪魔だぞ? そこの中途半端はまだ未熟だから何もしてないだろうが、そこの上級はたくさん人を殺してる。そんなのを生かしておいて、また被害者が出てもいいのか?」


 バエルに視線を向けると、彼は膝をついたまま、同意の意味を込めて笑う。

 確かにバエルは……今まではそうだったのだろう。けれどこれからは違う。


「それでも二人に手は出させない」


 バエルのことは。彼の願い通り、自分が祓うのだ。


「おもしろいことすんじゃん。魔力なしが!」


 ジードの手から放たれたのは小さな白い無数の針だ。針は威嚇するように飛んできて、床に刺さった。

 だが数本は――。


「――っ」


 身体に刺さった。針だから大したものではないがそれでも痛い。腕に、足に、それぞれ数本。


「レオッ! くそっ!」


 バエルは動こうとしたが、きっと悪魔の動きを封じる魔法なのだろう。上げようとした腕は鎖に縛られているように重そうで、そして再び地に落ちる。フレゴも歯がゆそうに唇をかみしめ、ジードを睨んでいる。


「へぇ、レオ、逃げないとは。すげぇじゃん」


 これぐらい、過去にされてきた痛みや苦しさに比べたら。今は自分の痛みなんかより、二人を助けたい。

 ジードは怯まない自分を見て、怪しい笑みを浮かべる。


「じゃあ、すごくなったレオに良いこと教えてやろうか。悪魔の祓い方だ。知りたかったんだろ? クラヴァスがさっき授業終わりに聞いてきたもんな。悪魔と仲良くするヤツには教えてやらなかったけど」


(クラヴァスくんがっ……)


「でも、その前に、これじゃダメだな」


 そう言いながらジードは指を鳴らす。

 するとなんら変わりなかった教室の色が抜け落ちたように灰色一色となる。


「学校の中でやり合ったんじゃ、校則に違反しちまうからな……これなら大丈夫、魔法でシールド張ったから騒いでも誰にもバレないし、外からは見えない。もちろん、お前達が死んだ後も跡形もなく消せるから亡骸もない。死んだなんて誰も思わないのさ」


 その言葉に自分への殺意を感じる。今度はいじめるなんて生易しいものじゃない。ジードは悪魔二人もろとも自分を消す気だ。


「なんで、そこまで悪魔が嫌いなんだい? 確かに悪魔は人の命を奪うけど、そうじゃない悪魔もいるだろうっ?」


「嫌いなわけじゃないさ、別に」


 ジードは這いつくばる二人を蔑むように見てフッと笑い、手首を回した。

 すると二人を縛る魔法陣の強さが増したようだ。二人のうめき声が大きくなる。


「悪魔をさぁ、葬ると感謝されるんだよ。俺はそれが気持ちいいだけだ!」


 魔法陣の色が、赤い色が濃くなる。二人がさらに地に沈む。強い力で圧迫されているようだ。


「ただの風評だよ、悪魔が悪いっつーのはな。でもそれを葬れば葬ったヤツはヒーローだ。俺の家はそれで金を稼いでいる。悪魔の祓い方なんて一部のヤツしか知らないからな。悪魔に悩まされるヤツ、取り憑かれて困ったヤツ……みんな頼ってくるのさ」


 ジードは赤いマントの下からナイフを取り出す。それはフレゴが持っているナイフと同じ柄が銀素材のものだ。


「まず、準備する物は聖なる力を込めたナイフ。ただ単純に聖魔法を込めただけですから、これは魔法使いなら誰でも準備ができますねぇ。ただ次が問題です。大きな魔力が必要となりますよ〜」


 フザけた口調でジードはナイフを前にかざす。


「このナイフを悪魔の身体に突き立てます。もちろん悪魔は傷をつけただけじゃあ死にません。だからナイフに魔力を込めます。これには大きな量が必要なので、みんながみんなできるわけじゃありませんから、真似はしないでくださいね〜」


 ナイフの切っ先はバエルの方を向く。

 バエルは自身を縛る魔法の力に抗い、ナイフを睨むが、つらそうだ。


「さてナイフに魔力を込めるとどうなるかですが、悪魔の身体に大きな魔力を送り込むことになります。悪魔の身体は魔力の塊です。魔力を蓄えたガラス玉と例えましょう……それに大きな魔力を一気に送ったらどうなるか? もちろんガラス玉は、パァンとはじけ飛びます!」


 ジードはアハハッと狂気的な笑った。


「つまり悪魔を爆発させる! それが悪魔の祓い方ですよ〜! ……わかりましたかぁ?」


「爆発……!」


「そう、木っ端微塵……あ、ちなみにそこの中途半端悪魔の友達を以前殺した時、身体が残ってただろうけど。あれは半分人間だったからだ。爆発まではいかなかったんだ」


(そんな……悪魔の祓い方って、そんなひどいものなのか……そんなの……)


 ふと二人の方を見た時、フレゴの身体が震えていた。

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