恋に悩み⁉ 悪魔も複雑
第26話 新たな事件です
「絶対にアイツが来たからだ。そうに決まってる。アイツが俺に嫌がらせをしているんだ」
クラヴァスは草地に座り、立てた膝に肘を乗せ、小さい子供のようにムッとしている。
レオもその隣に座り、授業をサボる目の前の生徒をなんとか説得しなきゃと思いながら、それを試みている最中だ。
「でもジードがそんなことをしたという証拠はないでしょ。むしろこの前、ジャン先生も同じように“額に黒い紋様”が現れたけど、あの時ジードはすぐに帰ってしまったじゃない」
「じゃあなんで、俺を襲ってきた生徒が二人もいるんだ? 上級生だけどさ」
その言葉には「うーん」と唸るしかない。
事の経緯は昨日から始まった、特別講師としてやってきたジードの授業をクラヴァスがサボっているのが始まり……と言うべきなのか。
それが原因かわからないが。クラヴァスはサボって訪れていた街中の人通りがない場所で、昨日とつい先程、ルラ魔法学校の生徒に襲われたのだという。
余裕で返り討ちにしてやったが街は厄介と判断したクラヴァスは、今はこうして寮周辺の森で時間潰しをしている。襲ってきたその生徒達の額には、あの黒い紋様があったとか。
それゆえ、クラヴァスはジードが生徒に魔法をかけて己にけしかけていると疑っている。
「でも教員、ではないけど。講師として来ている人がサボってる弟を連れ戻すために生徒に魔法をかけるなんて。本当なら大問題だよ。ジードの肩を持つ気はないけど、さすがにそこまではしないと思うな」
そんなことをしたらジード自身の立場が危うくなる。プライドの塊である彼が、そんな人生転落しかねないことをするだろうか。
では犯人は誰か、予想もつかない。それにしてもジャンだけでなく、生徒にも影響が出ているとなると黙っているのも難しいと思う。
「あ、レオさん。まだ他のヤツに言ったらダメだよ。俺がサボってたのバレるじゃん。それに返り討ちにしたって言っても魔法で飛ばしてやっただけ。多分すぐ戻ってくるから。俺が校内にいる時にまた襲われた方がサボってるとみなされないで都合が良い」
「どんだけ自分勝手な解釈なの……」
頭が良いだけあり、悪知恵は働くというか。それに強く言えない自分もダメな大人だなぁと思う。とりあえず他に被害はないようなので、もう少しだけ様子を見てもいいだろうけど。
「厄介事が嫌なら君も授業出れば? そうしたら何も起こらなくなるかもよ?」
「それじゃあ黒い紋様の犯人はアイツってことだよ」
「そういうことじゃないんだけど。とにかく嫌いな相手でもちゃんとやることはやらなきゃ。大人になってからもそういうのはあるんだよ」
なんだか説教みたくなっている。でも相手は一応子供なので言うことは言わないとだ。
「じゃあレオさんにも嫌いな相手はいるってことだな。一人は絶対に兄貴だろー。あと誰だろ、ジャン先生は、まぁないだろ。教頭とか?」
「こらこら……」
「そういうのってめんどくさくない? なんでわざわざ嫌いなヤツとも仲良くしなきゃいけないんだよ。俺は嫌だな……イライラしないの、レオさんは」
子供らしいと言えば、子供らしい意見に苦笑いだ。そう、大人は面倒くさいのだ。
「そうだね〜、イライラはしないこともないけどね」
「えぇ、レオさんでもイライラすんの? 俺、のほほんとしてるレオさんしか見たことない」
「人間だもの、イライラもするよ。でも僕はね、わりとすぐに消えちゃうというか、一瞬フッとイライラしても治まっちゃうんだよね。だから基本的にはあまり、ないかもね」
クラヴァスが「それってすごいな」と感心したように笑う。
「大人の余裕ってヤツなのかな。でもジャン先生はいつもトゲトゲしてる、余裕ないんだな、アイツは」
「こらこら、一応先生なんでアイツとか言わないであげて」
確かにネガティブ思考だけど。ここ最近はこの黒い紋様事件のことを追いかけて楽しそうなのだ、不謹慎だが。
「でもわかるかもな」
クラヴァスは笑みを浮かべ、目元も柔らかくしてこちらを見た。
「レオさんといると落ち着くんだよな。そうやって俺に小言言うのもレオさんぐらいだけど全然嫌な感じにならない、むしろ納得してるよ……そうだな、なんつーかな」
クラヴァスは思い出すように、自身の唇を指で触れた。
「レオさんとキスした時、俺、すげぇちょうどいいなんて思ったんだよな」
またとんでもないことを言い出され、レオの身体が固まる。やめてぇ〜、と頭の中で一言。
「身体の中の悪いもんが消えたみたいな、心地良いものだけが身体に残ったちょうどよさ、みたいな感じ。スッキリする感じ、かなぁ」
クラヴァスが態勢を変え、スッと顔を近づけてきた。
「だから俺、アンタが好きなんだよな。何度でもキスしたい。なぁ、スッキリさせてよ」
また背中に冷や汗だ。顔は熱くなるのに、背中はスゥッと冷えてくる。
「ちょっ、また、何言ってんのっ!」
「してくれたら授業出る」
「えぇっ」
それは卑怯だ、卑怯すぎる。
顔を近づけようとするクラヴァスに手の平を向け、制止するが。授業に出すには、しなきゃいけないとっ⁉
「う……ほ、本当に? 授業行く?」
大人として、ここはどうでるのが正解なんだろう。授業は出したいが、この行為、倫理的には?
(ぼ、僕は……)
悩んでいた時、クラヴァスはククッと笑い、肩を揺らした。
「あははは、アンタってホント、おもしろいっ」
クラヴァスはそれはそれは楽しそうに笑っている。自分は冷や汗で手がベチャベチャだ。
これは、からかわれたのか?
「はー、全く。アンタにはかなわない、ホント、好きだわ……わかったよ」
クラヴァスは立ち上がり、制服をはたいてシワを伸ばした。
「めたくそ行きたくはないけど。授業は出てやる」
その言葉にホッとしかけたが。クラヴァスは「その代わりに――」と怪しげな言葉を続けた。
その言葉を脳に浸透させた自分の心は(うわぁぁぁ)とまた叫んでしまった。
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