第14話 悪魔同士がバトってます
こんな時、魔力があったならといつも思う。自分で状況を打破できればいいのだが自分はただの清掃員。戦いはできないし、それに巻き込まれれば命を失うだけだ。
でもここ最近、自分は周囲の人によく助けられるようだ。出会ってまだ日は浅いのに、いきなり現れては自分の窮地を救ってくれる年若い魔法使いと。
そしてもう一人――。
「そいつに手を出されたら困るんだよなぁ」
半年の命という宣告をしたのに。自分を喰おうとするケルベロスと自分との間に入り、ケルベロスを制止する黒鉄色の肌をした悪魔。
「こいつはオレのもんなんだよ」
ケルベロスは目の前に現れた小柄な悪魔に唸り声を上げたが、次には耳を伏せて「くぅん」と細い声を上げる。その様子は格上の相手を見て萎縮する犬の上下関係のようだ。
バエルは縮こまるケルベロスに近づいて「お手」と手を出した。
すると本当の犬のようにケルベロスは片手をバエルの手の上に乗せて甘え声を出す。
「いい子だ」
バエルはやはり格上の悪魔なのだろう。彼がケルベロスの頭をなでるとケルベロスは黒い煙のように渦を巻きながら魔法陣に消えていった。
「よぉ、なんだかおもしろいことになってんじゃん」
バエルは翼を広げ、今度はフレゴの方を向く。
「貴様、悪魔の血、引いてんな。だからこの世界に来れたわけだ」
バエルの言葉にレオは目を見開いたが、その事実を突きつけられたフレゴも赤い瞳を丸くしている。
「悪魔っ……ホンモノか……!」
「御名答、ホンモノ」
バエルはニッと笑うとフレゴの目前に瞬間移動していた。握られた長い爪の拳はフレゴに当たる直前で、フレゴが歯を食いしばってかわしていた。
「くそっ!」
フレゴはもう一度手をかざし、足元に黒い魔法陣を発生させる。今度飛び出したのは赤い血のような瞳をした黒い体毛のヒョウだ。
「ハハッ、ずいぶんかわいいヤツばかりじゃねぇか! 今度は少し遊んでやるよ」
バエルはヒョウとにらみ合い、ヒョウに合わせてゆっくりと横に歩き出す。草原で出くわした肉食獣みたいな両者はそろそろと足を動かし、互いに狙いを定める。どう動くか、どう狙うか、どこが急所か。
ヒョウは格上相手に怯みそうなのか必死さをあらわに。
バエルは相手をいたぶるように笑っている。
「ククッ! いくぜぇっ!」
先にすごい速さで動き出したのは翼を広げた
バエル。瞳を光らせ、握った拳をヒョウに向かって突き出していた。
ヒョウは避けたが、次の攻撃はかわせなかった。バエルは反対の手も繰り出し、ヒョウの胴体に手を触れていた。
その瞬間、ヒョウは消し飛んでいた。黒い水の泡のように四方に散っていき、その場には跡形もなくなる。黒い魔法陣もスゥッと消えた。
だがそこを狙っていたのはフレゴだった。
フレゴはバエルへの間合いを一気に詰めると持っていたナイフでバエルを切りつけた。
避けなかったバエルの腕をナイフの刃がかすめる。黒鉄色の肌に白い筋が入り、赤い血が流れた。
「ほ〜、それって聖なる力を込めたナイフだろ。なるほど、それならオレも斬れるな! って一応、同族のくせになんでそんなもん持ってんだ?」
バエルは流れ出た血を腕を振るって払う。悪魔は斬られても死なないみたいなことを言っていたが、聖なる力の宿ったものだとダメなのだろうか。
フレゴはナイフをかまえ、顔をしかめる。
「ふん、これは俺のものじゃないよ。ただこれで元の持ち主の身体を切り刻んでやるために持っているんだ」
元の持ち主……フレゴが恨みを抱く人物は一人しかいないと思うが。
(じゃあ、あのナイフは、あの子の? ……う、うぅ……)
成り行きを見ていたが急に身体が重くなり、膝が崩れる。
(な、なんだ、これっ、息、が苦しい)
床に両手をつき、苦しさを和らげようと深呼吸をする。しかし一向に呼吸は楽にならず、むしろ胸の痛みが増していく。細かな針が肺を刺しているような感覚だ。
「おっと、こりゃまずいな」
そう声を上げたのはバエルだ。
「人間はこの空間じゃ十分ぐらいが限界だ」
そうなんだと、レオは内心で返す。
そうだよね、ここは人がいる世界じゃないんだもんね……肺が凍ったのかな……。
意識が朦朧としてくる。身体に力が入らず、倒れそうになっていた時。
身体がグルッと向きを変え、自分の身体が“誰か”によって抱えられる。誰かなんて、この場にこんなことをしてくれる者は一人だけだ。
「バ、バエルく、ん……」
「悪ぃな、遊んでる場合じゃなかったな」
なんてことだ、自分はバエルに抱えられている、しかも横抱き……いい年したおじさんなのに、この態勢っていいのかな……。
「貴様との遊び時間はここまでだな!」
バエルは両方の翼をバサッと広げた。その瞬間、衝撃波が走り、周囲を揺らす。フレゴも態勢を崩した。
「レオ、捕まってろ! 戻るぞっ!」
何がなんだかわからないうちに、身体に触れる空気がぬるくなった。景色も真っ黒だ、何が起きているのか。ただバエルの手は自分をしっかり抱えて「あと少し耐えろ」と言っている。
見た目は少年、でもバエルは自分よりも長く生きている悪魔、元は人間の子。
(なんだかな……おじさん、どうしてあげたらいいかわかんないよ)
でも素直な気持ちを言い表せば。
「あ、ありがとうね、バエルくん……」
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