第9話 実は暗い過去です
忘れもしない学生時代、地方の魔法学校に通っていた時のこと。
魔力なしだった自分と、そこそこ魔法を扱えるジャンは同級生だった。
『魔法が使えなくても卒業はできるって。その先のことなんか、何かしらやることも見つかるだろうから、あまり気にすんなよ?』
ジャンはいつも自分を励ましてくれた。特別、周囲からいじめられている、という環境にいたわけではないが。
魔力がないということで変な気づかいというか“”かわいそう”というレッテルは、ずっと貼られていたから居心地は悪かった。それは生徒だけでなく、教員からもだ。子供の自分としてはやるせない気持ちをずっと抱いていたのだ。
自分ってかわいそうなんだ、とか。
魔力がなくてやっぱりダメなヤツなんだ、とか……。
そんな追い打ちをかけるようにクラスにいたのがジードという青髪の少年だ。有名な魔法使いの家系でプライドも高い、とてつもない、いじめっ子。魔力なしの自分はもちろんのこと、自分に関わるジャンのことも言葉や魔法による暴力でいじめていた。
『この魔力なしが! 何もできない、生きる価値もないヤツ!』
ジードの心無い仕打ちは担任にも相談したが。彼の家からの仕返しを恐れ、特に対処はされず、自分達は卒業までずっと彼の所業に耐えていた。
『俺、アイツのこと、絶対に許さない……』
高笑いするジードへの恨みを口にし、にらむジャンの目つきは今でも脳裏に焼きついている……怖かった。先程の細めた目つきと同じだ。
ジャンはジードに関連することには態度が一変するのだ。
「そっか、ジードの弟なんだ……でもクラヴァスくんは、クラヴァスくんだよ。ジードとは違う。だってさっきも僕を助けてくれたよ」
その前に『魔力がなくて生きてて楽しいのか』みたいなことを言われたけど。それでも結果的には助けてくれたのだ。
「ふーん。ま、クラヴァスが何考えてんのかなんて、わかんねーし」
ジャンはグラスに口をつけ、中身をグイッと飲み干した。
「……召喚で誰かを狙っているのか、またはクラヴァス自身が狙われているのか。それもわかんねーし」
「ジャン、でも君は教員だ。教員が自分の解釈だけで差別とか、良くないだろ?」
ジャンはふてくされたように「まぁな」とつぶやき、店員に酒のおかわりを頼んだ。
「特別、俺はなんもしねーよ。とにかくジードの弟ってことだけは気に入らねーだけ……あとはクラヴァス自身も性格が悪いんだ。それによって俺も当たらず触らずな対応をするだけだ」
「今回のことって、処分重いのかい?」
「いいや、そこまでじゃねーよ。たかが一年同士のケンカ、数日の謹慎処分だ」
謹慎と聞いて一瞬重い印象を受けたが。多分クラヴァスならショックもないだろう。自室で自由時間も勉強に励んでいるかも。
「なに、レオ。クラヴァス、気になんの?」
「気になるというか、助けてくれたから。こうなったのは僕にも責任あるし」
「ふーん、まっ、あまり気にして、また嫌な目に遭わないようにな……なんてったってジードの弟だし」
ジードか……彼は今、どうしているのだろう。クラヴァスに聞けば教えてくれそうだが、別に聞きたくもないかも。きっとすごい魔法使いとして自分とは違って、栄誉ある仕事をしていると思う。
「そういや、レオ。悪魔召喚の魔法陣、昨日消したって言ってたけど。身体に不調とかないのか?」
「あ、あぁ、そういえば……」
自分もすっかり忘れていた。バエル、どこ行っちゃったのだろう。だがジャンにそのことを話しても心配かけるだけだ。
「身体は特に、なんともないよ。ただジャンに聞いてみたいことがあるんだけど。その悪魔が現れた場合、祓えたりするものなの?」
ジャンが驚いた顔で「祓う?」と聞き返したので、とっさに「たとえばの話だよ」とごまかした。
「あ〜、その……さっきフレゴくんが出してしまった黒い鳥の群れみたいなのを、クラヴァスくんがあっさり消していたんだ。だからそれが、たとえば上級悪魔でも消せるのかなと思って」
頭の中では(バエルくんには悪いけど)と思っている。半年間の宣告された命だけど、どうせなら、やはりもっと生きてはいたい、何もなくても、ただ生きてはいたいと思う。
ジャンは運ばれてきたグラスを握り、反対の手でテーブルに置かれていた肉の串焼きをいじった。
「う〜ん、正直、俺にもわからねぇ。ただ不可能じゃないかもしれねぇけど。強い力には相応の強い力でぶつかればいいって言うからな。フレゴの出した召喚は単純にクラヴァスが圧倒的に強かった。だから召喚された以上の力があれば、なんとかできるんじゃねぇかな」
「そっか」
話をしながら自分も肉の串焼きをいじる。ただ自分に憑いているのは強い悪魔だ。バエル……命を奪えると言っていたから。
けどクラヴァスなら祓うことができるかもしれない。今のところ彼の力はジャンや他の教員をしのぐだろうから。
(……あの子に、お願い、するか……?)
その考えは、目の前で酒を傾ける友人によってすぐに消し飛んでしまうのだが。
「でも大きな力にぶつかると、その力をぶつけた本人もただじゃ済まない。ヘタしたら死ぬかもな」
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