第46話、熱血全力少年、未だサプライズはこないまま、風吹く悲哀





初めは怒っていて強めだった口調が、だんだんと頼りなくなっていく。

そこで初めて、一連の行動をまどかちゃんから見た立場で思い返して、すごく後悔した。


いくらなんでも少しくらい説明するべきだったんじゃないかと。

まあ、そんな時間もなかったんだけど。



心配してくれたのはすごく嬉しかったけど。

今にも泣いてしまいそうだったので、オレは慌てて弁解することにする。



「ごめんっ、怖がらせたよな。でもオレ、あの船が来ることは知っていたんだ。夢で見ていたからさ。それよりも、雨の魔物にその存在をギリギリまで気付かせたくなかったんだよ。後は、まあ……船が来る直前で、思いっきり跳躍してかわしたんだ。『醒眉』の力があったからこそだけど、うまくいっただろ?」

「うう。ひどいよ、雄太さん。わたしにも手伝わせてくれるっていったのに」

「いや、だから、今のはまどかちゃんがいたからこそでっ」

「嘘つきーっ」


まどかちゃんは、怒っているような泣いているような、どっちとも取れる顔で。

オレのことをぽてぽてと叩いてくる。

うーむ、ひょっとして力を貸してくれって意味を、一緒に戦ってやっつける、みたいな意味にとっていたのだろうか。


いや、まさかね。

オレがそんな益体もない事を考えていると、ふと、ぽてぽてがやんだ。


「もう、絶対、あんなことしないでっ……」


有無を言わせず言うことを聞かせられるような、懇願。

まどかちゃんだから、許せるんだけど。

俯き、そっと囁くようなその声は、本当に強い願いがこもっていて。


「分かったよ」


君のためならどんな無茶だってって思ってはいたけど、それは今は余計なこと。

だからオレは、そうとだけ言って、頷いたのだった……。






それからオレは、雨の魔物はどうなったのかをまどかちゃんに聞いた。

オレのことが気がかりで、はっきりとは見ていなかったらしいが(ちょっと嬉しい)、雨の魔物はオレと違って作戦通り船の直撃を受け、百舌のはやにえのように空に打ち上げられ(まどかちゃんがそう言ったのではなく、オレの解釈)、そのまま砕けて霞みのように消えていった、らしい。



「あ、そうだ、黒陽石は? 黒陽石でできた仮面は無かった?」

「あ、それなら向こうにあるよ?」


まどかちゃんに言われるままに顔を向けると、

壊れた船の先首に、雨の魔物を模した黒陽石の仮面が引っかかっていた。


『フォーテイン』で最初に見た時や、雨の魔物として闊歩していた時のような、禍々しい気配はもうそこにはなく。


その様は、長年野ざらしになった墓標のようで。

あれをどう扱い、どうするべきなのか、判断に迷ったその瞬間、強い風が吹いた。

今までさほど気にならなかった雨が、頬に痛い。



「あっ……」


そして、今まで形作っていたのが嘘のように。

それはぼろぼろに崩れて風に捲かれ、消え去ってしまった。



「……」


オレはそれに対して何を思えばいいんだろう?

ただ、身体の痛みより、心が痛んだ。


自分が生きるために、そして自分のいいように。

自分本位で、片方の可能性を切り捨ててしまった。

それを受け入れるのは、すぐにはできそうもない。


快君の子供のような、明るい声が。

中司さんの教え諭すような、落ち着いた声が聞こえるような気がする……。


それは、オレのことを責めているんだろうか。




「……っ」


オレはそれから無理矢理視線を逸らすようにして、立ち上がる。


「……行こう、まどかちゃん。きっとゴールはもうすぐそこだろうから」

「……」


まどかちゃんは黙って頷いてくれた。


ただ、その表情は悲しみに染まっていて。

それがオレの表情を映したものだと気付いたのは、その後すぐのことだった……。



    (第47話につづく)






  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る