第41話、熱血全力少年、生成の鳥籠姫と雨中泳ぐ馬車に乗る




……と、そんな時だった。

足元から来る、微かな振動音と、どこからともなく流れるメロディ。

それは、メリーゴーランドが動き出したことを証明する音でもあって。



「わわっ、動いてるよ。どうして?」

「本当だ……」


まどかちゃんは、馬車の降り口から顔を出して、辺りを見回す。

その向こうには、雨に煙る外の景色が、ゆっくりとスクロールしていた。

今度は何が起きたのか、そう言う緊張半分と。

その神秘さに生命を吹き込んだような場の空気の変化に。

オレはそう言ったきり、ただ外を見ていることしかできなかった。


そして、メリーゴーランドの動きが完全に軌道に乗ると、イルミネーションが光の強さを増していく。

どこからともなく流れ出るメロディは、光に花を添えるかのように幻想的な雰囲気を作り出していて……。



それを聴きながら、ふと思い浮かんだのは。

看板の、『三つのサーキュレイトに導かれし者のみ、光を指し示す』

という言葉。


「もしかして看板の意味、三つのサーキュレイトのうちの一つは、このメリーゴーランドのことじゃ……」

「え、えと。さ、サーキュレイトって、なに?」


まどかちゃんは首を傾げてそう尋ねてくる。

オレはすぐに解説を始めた。


「サーキュレイト……円環のこと、または円形、環状をなす物体のことだったかな。

普通は送風機の事を言うらしいけど……って、待てよ?」


そこでオレは気付いた。

恐らく、ここを出るために一番重要なことを。


「あのさ、まどかちゃん。まどかちゃんの名前って、漢字でどう書くの?」

「え? えっと、普段はひらがななんだけど、もし漢字を使うとしたらって、おじいさまに教えてもらったのは、『円』という字だよ」


そう言ってまどかちゃんは手のひらに、その字を書いてみせる。

それでオレは確信した。


「やっぱり、そうか。三つのサーキュレイトの中には、まどかちゃん自身も含まれていたんだ。だからきっと、このメリーゴーランドも動き出したんだよ!」


オレの声色は明るかっただろう。

答えを掴んだ……そんな実感がオレを包む。



「そうだ、あと他に何かおじいさんに言われたこととかない?」


後一押しだ。

幸い、最後のサーキュレイトにも、目星はついている。


「言われたこと……あ、そうそう、これだよっ。この巻物、これはわたしに必要なものだから、絶対手放しちゃいけないって」


まどかちゃんはそう言って得意げに、巻物を掲げてみせる。



「それ、ちょっと見せてもらってもいいかな?」

「うんっ、どうぞっ」


オレはそれを受け取ると、さっそく巻物を紐解いてみた。

ずっと雨の中に野ざらしになっていたせいか、ただ開くだけでも中々に苦労したけれど。


「見てくれ! まどかちゃん、地図と赤い線が浮き出てるっ!」

「あ、ほんとだっ」


きっと雨に濡れたことで、元々何も書かれていなかったそれに変化が起きたのだろう。

思いがけない発見に、さらに気分が高揚してくる。

オレは、まどかちゃんとともにそれを慎重に広げ終えると、改めて地図を見てみた。

その赤い線は、まるで浮かび上がるかのように、複雑な白壁の道を伝っていて。



「雄太さん、凄いよっ、わたしこんな風になるの、全然知らなかった!」


まどかちゃんは、巻物の劇的な変化に、感動の声をあげる。


「い、いやあ、それほどでもあるけどね」


雨に濡れたおかげでの結果であり、オレが凄いわけじゃないんだけど、ここは言わぬが花ということにしておこう。


「これと、今いる場所を照らし合わせれば」

「あれ?」


オレは得意げにそう言ってまどかちゃんを見るが、何故かまどかちゃんは外のほうを覗き込んでいた。


「どうかした?」

「あ、あの。このかぼちゃの馬車、メリーゴーランドから抜け出ちゃってるみたいなんだけど」

「えっ?」


オレもまどかちゃんに倣って外に顔を出すと。

確かに馬車は動き、飛び出していた。

後ろを見ると、メリーゴーランドの他の乗り物や馬たちもついてきており。

遠くに、空になったメリーゴーランドの台座と屋根が取り残されているのが見える。

実際には馬はその足で走っているわけではなく、河を進む船のように、それらは動いていた。


オレはそれを見届けてから、改めて地図を見てみることにする。

そして納得した。


「なるほど、ここから赤い線を辿って進めってことか。これなら目的地まで、楽して行けそうだ」


オレは頷き、作り物の馬車のたずなを取る。

馬車を動かすなんて初めてのことだったけど、それは思いのほかうまくいった。


「目的地、それってどこですか?」

「うん。最後の、三つ目のサーキュレイト。観覧車、『フィリーズ・ホイール』の所さ」


遊園地でサーキュレイトなものって言えば、メリーゴーランドとか観覧車のことだろう。

コーヒーカップとかもしれないけど、なんか最後のって感じしないし、何よりそれはもう乗っちゃってるし。


だから、オレはまどかちゃんに、確信を持ってそう告げるのだった……。



   (第42話につづく)






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