第36話、熱血全力少年、三輪ランド創始者と邂逅す
「こりゃ、凄いな……」
辿り着いた所は。
オレには全く見当もつかない、いろいろな機械に囲まれた、基地のようなスペースだった。
三輪ランドの心臓部分、そう言われてもおかしくないだろう場所だ。
まず目に入ったのは、中央が少し高くなっている、小さな円形のステージめいたものだった。
ヴゥウウウーン……。
「っ!」
とりあえず調べてみようとそれに近付いた時だ。
まるでそれを感知したかのように機械の駆動音がして、機械が動き出し、中央のステージを緑色のライトが照らしだす。
すると、どういった仕組みなのか、そこに突然誰かが現れた。
「あなたは。『プリヴェーニア』で会った?」
それは、ここに来て最初に出会った人物。従業員の服を着た老人だった。
オレのつぶやきに答えるように、ゆっくりと目を開き、こちらを見る。
その色は、意思の宿った朱の混じる黒色だった。
「やはり来たか。永輪の少年よ。待っていたぞ。私は、三輪博士(みわ・ひろし)。
この三輪ランドの創作者にして、運命を共にするものだ……」
その言葉を聞き、オレの思考は一瞬停止する。
この人がここを作った人、だって?
それを聞いた瞬間。
オレの中で様々な感情の波が押し寄せ、そして砕けた。
「あ、あんたがっ!」
言いたいことはたくさんあって。
でも言葉の代わりに出てきたのはやるせない怒りだった。
オレは感情のままに三輪さんのほうへ向かっていった。突進といっても大げさじゃなかった。
「……」
三輪さんはそんなオレを、ただ表情を変えずに見届けている。
オレの怒りが、まるで意味のないことだと言っているような気がして、怒りの衝動が止められそうもなかった。
「うわっ?」
しかし。
オレは三輪さんの体を掴むことはできず、すり抜けて反対側に無様に転んでしまう。
それでも顔を上げ、睨み続けるオレに、少しためらった後、三輪さんは言った。
「気持ちは分かるが。これは立体映像。私の肉体はもうどこにもない。この三輪ランドに、喰らわれてしまったからな」
三輪さんの言葉は淡々としていたが、その中には悲しみが確かに混じっていて……。
「だあっ、もうっ!だっせぇなっ」
らしくない行動をしてしまった自分に反省して。
オレは立ち上がって再び三輪さんと向き直った。
こういう時こそ冷静でなきゃいけないってのに。
「す、すみません。気が動転してて……でもっ、ここは一体何なんですか? あんな怪物が出て、友達もっ」
オレは俯くように、言葉を発する。
気を抜けば怒りと悲しみが溢れ出てしまいそうだったからだ。
「……済まない。全て私の責任だ。本来ならば全ての罰を、この身体で負うべきなのだが、それも叶わぬこと。ただ、何故この三輪ランドがこんなことになってしまったかの説明はできる」
オレは三輪さんの言葉を聞いて顔を上げた。
「お願いします、それを聞かせてください! このままなんて絶対駄目だからっ」
「ああ」
思わず出たオレの言葉に、三輪さんはしっかり頷いてくれて……。
「……私は、ある研究に人生の全てを捧げていた。それは、細胞のように分裂、増殖し、環境の変化にも対応できる『生ける建造物』の研究だった」
放たれた言葉は、最初から突拍子もなかった。
でも、ここで起きたことを考えれば、驚きはもうほとんどなかった。
もちろん、疑うことも。
「生きている、という条件を満たすため、それを創りあげるには、莫大なエネルギーが必要だった。そのエネルギーを求めて試行錯誤の中、私が目をつけたのは黒陽石だった。長年、地中深くで眠り続けた黒陽石には、魔を引きつけ、その力を宿らせるという。その力なら、そのエネルギーを十分に補えるだろうと考えたのだ」
確かに、オレも似たようなことを考えていたのを思い出す。
そしてそれは、オレの視覚情報や記憶が、全てを証明していた。
「結果で言うと、研究は成功だった。しかし、それはなかなか世間では受け入れられなかった。だから私は、それを分かりやすい形で証明するために、この三輪ランドを創ったのだ。私の研究を手伝ってくれた者たちや、孫の手助けもあって、この三輪ランドは、新しい世代のテーマパークとして、経営も順調……全てがうまくいっていた」
その時、ホログラフであるはずの三輪さんの表情に。
一瞬だけ優しさがにじみ出たような気がしたが。
それを追求する暇もなく、話は続く。
「しかし、あの黒陽石の仮面……大昔からこの地に眠り、存在したといわれるあの仮面は、私が思っているほど生易しいものではなかった。手に入れたときは、運が良かったと思ったが、ひょっとしたらそれすらも、あれの意思だったのかもしれない」
三輪さんの声色に、苦渋が混じる。
オレ自身も、あの仮面のことを思い出し、行き場のない悔しさに唇を噛んだ。
あの仮面、黒陽石さえなければ!
口には出さないが、三輪さんにもそれは十分伝わっただろう。
それでも三輪さんは、思いのたけを吐き出すように、言葉をやめない。
「あれは、まず手始めに『生ける建造物』を我が物にし、操った。そして、それを暴走させ、ここにやってきた人間の生命を、自身の依存性を使って貪りだしたのだ。それによって生まれたのが、あの伝説の怪物、『雨の魔物』だ。……何故あんなものが生まれたのかは分からない。ひょっとしたら、人の心の奥底にこそ、魔は潜んでいたのかも知れないが。それからというもの、ここは雨の魔物が跋扈する恐ろしいダンジョンになってしまったのだ……」
三輪さんはそこで言葉を切って、一息置いた。
溜息すらも昏い場の雰囲気が。
オレの心をじくじくと侵食していくようで……。
(第37話につづく)
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