第35話、熱血全力少年、夜のダンジョンを冴えて彷徨う




何時間経ったのかは分からない。

闇は変わらず、闇のままだった。


時折見つかる白い壁に立てられたカンテラの光だけを頼りに、歩を進める。

夜は不気味なくらい静かだった。

陽のある時分でも、人の気配はほとんど感じられなかったが、夜は否応なく独りを意識させる。


が、それでもオレは歩みをを止めなかった。

ありのままの自分の本音とぶつかりあって、発破をかけられた状態が続いていたのもある。

こうなることが、オレにとって最善であると見越していたのだとしたら。

オレ自身の脳も捨てたもんじゃないな、なんて思ったりもした。


そして、持ってきていた、水やお菓子などが尽きかけた頃に。

オレはある場所に到達した。



その場所は、一見ただの袋小路のようだったが。

その行き止まりの所に、前に見たような木箱があった。

オレはそれに近付くと、ゆっくりと開けて中身を見てみる。


中には、地図らしき紙の束が入っていた。

広げてみると、それは最初にまどかちゃんに案内されて見つけたものと同じ地図のようだった。

とりあえず持っておこうと、きびすを返した所で、オレは立ち止まってしまう。

よくよく見ると、反対側の行き止まりにも、木箱があったのだ。

駆け寄って開けると、それにも地図が入っていて……。



「どういうこと……だ?」


オレは戸惑いを覚えつつも、二つの地図を広げて見てみる。

そして、すぐに気が付いた。


「違う。この地図、似てるようだけど、違うじゃないか」


これで少なくとも、地図が三つあったことになる。

それの意味するところは何だろう?

オレは他にもあるんじゃないかと思い立ち、あたりを駆けずり回った。



……結果。

新たに五枚の地図を見つけることができた。

オレは、計七枚の地図を広げて互いに見比べてみる。

やはり一枚一枚が違うもののようだ。

そして、そこにカギがあるのだろう。


ここは、勝手に変化する迷路なのだ。

地図を作るなら、入り口にあった大きな地図のように地図も変えないといけない。

すると、この地図たちは変化する前の地図……過去の迷路を記録したものということになる。


ひょっとしたら地形が変わるたびに新しい地図がどこかで生まれているのかもしれない。

それは突拍子もない考えだったけど、入り口の地図が様変わりしていったことを思い出せば納得できる。


そんな感じでしばらく地図と格闘していると、オレはあることに気が付いた。



「この×印の部分だけ、どの地図も場所が変わってない?」


オレが覚えている一番新しい記憶の×印の場所には、黒陽石があると中司さんが言っていた広場があった。

これらの地図を見てみると、そのうちの一つには『プリヴェーニア』がある。


また、その他の大半はその×印が何もない道端にあるのが分かった。

しかし×印は、どれも大体地図で言う上側の中央部分に位置していて、その場所は変化していない。

つまり……。



「きっとこの×印の所に、見落とした何かがあるはず!」


その閃きは、闇を照らす、わずかな光明のようで。

オレは確信に満ちた思いとともに×印の場所、『フォーテイン』へと引き返すのだった……。





         ※      ※      ※




そして、朝日が昇り始め、日が変わったと実感する頃。

オレは『フォーテイン』へと到着した。


ざっと辺りを見回す。

やはり、あの物見やぐらが怪しかった。

どこか、違和感がある。


あれだけ、このロケーションにマッチしていない気がする。

オレは、物見やぐらに近付き、周りをぐるっと回ってみた。



「……あった」


するといとも容易くそれは見つかった。

やぐらの円柱の後ろ側にある、引っ張って扉を開けるための取っ手と。

オレの背丈の半分くらいの大きさの四角い切れ込みが、円柱に走っている。

さっきここにいたときはもう夜だったので、さすがに気付かなかったみたいだ。


オレはその取っ手をとりあえず引っ張ってみる。

初めは何か抵抗があったが、それはすぐにパチンと音を立てて開いた。

中には、下りの螺旋階段が続いている。


この先には一体何があるというのだろう?

まるで罠にかかった獲物を待っている蟻地獄のように、捩れた階段は底が見えない。


でも、オレはすぐに頭を振ってそんな考えを打ち消した。

ここまで来ればまず考えるより行動だ。

少なくとも、目の前に道が示されている以上は立ち止まっていられなかった。


オレは自分に言い聞かせるように一つ頷くと。

それでも辺りに気を配りながら階段を下っていって……。



     (第36話につづく)






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