第25話、熱血全力少年、再びダンジョン改変に巻き込まれる



なんとも落ち着かない気分で。

だけどそれは悪くない空気で。

まどかはちゃんと連れ立って建物の中へと入る。


開け放たれたその先にあったのは。

豪邸と言ってもいい足音の立たない赤い絨毯の敷き詰められた、玄関ホールだった。



採光窓がないせいか、薄暗くて寒い。

まるで冷房でも効かしているかのような冷えた空気がその場に蟠っている。

灯りはぽつりぽつりと浮かんで見えるオレンジのカンテラだけだ。

その灯りの一つ、硬く閉ざされた大きな大きな観音扉の前に、先行していたはずの快君、中司さんの姿がある。


危惧していた黒服たちの姿はない。

オレたちはそれに一安心し、二人の元へ近付く。



「あっ」

「おっとと」


と、それより早くまどかちゃんが躓いた。

絨毯がうねっていて、それに足をかけたのだろう。

気付いてたんなら声ぐらいかけてあげないと。

内心で自分を責めつつも、転んでしまう前にオレは彼女を引き寄せる。


「……っ」

「あ……」


自分が勢いで何をしたのか気付いたのはその時だ。

決して避けてるわけでも、嫌がっているわけでもないんだよって自己主張しつつも、手早く掴んでいた手を話す。


「ご、ごめん、絨毯がよれてたの気付いてたのに」

「あ、いえ、ありがとうございます……」


薄闇でまどかちゃんの表情はあまりよく見えない。

ただ、嫌がられてはいないようだ。

それにちょっとほっとする。


「ちょっと、そこの面倒くさい二人、いつまで待たせる気よ。早くして」

「なんかさ、こっから先、人数いないと開かないみたいなんだよ」


だがそれも束の間だ。

言葉ほど怒ってはいないが、催促するような中司さんの声と、補足する快君の楽しげな声がかかる。



「わ、悪い」


それに習い二人の元に駆け寄ると、そこには魔方陣を模したパネルがある。

赤と青、色違いのものが二つずつ、計四つ。

まるでこっちの人数が分かってるみたいに。


「どうやらここからは二手に分かれなきゃいけないみたいね」


そう言って、中司さんが示して見せたのは、入り口にあったのと同じような扉の横手、柱に刺さった看板だった。

そこには、『雨の魔物の館』についての説明が事細かに書かれている。


それによると。

雨の魔物の館は、三輪ランドの目玉アトラクションの一つらしく。

大抵のお化け屋敷は、一度入ってしまえば中身が変わることはそうあるわけではないので飽きられがちだが、ここはそんなイメージを払拭するようだ。


何でも入る度に中身が変わるらしい。

しかも、オリエンテーリングのごとく、二手に分かれてそれぞれのチェックポイントを通過しなければ、外に出ることはできないのだという。

まぁ、非常口なんかは別にあるんだろうけど。

チェックポイントは全部で十あり、そのうちの五つを二手に分かれたそれぞれが通過すればいいそうで。


「ほら、残りの二つよろしく」


説明書きを読み終えるか終えないかの所で、中司さんの急かすような言葉がかかった。

見ると、既に中司さんも快君も、魔法陣の上に手のひらを置いている。

余っているのは青い魔方陣が二つ。

どうやっらそれに触れれば先が示されるらしい。

もう当たり前のように組分けが決まっていることに苦笑し、オレは開いていた青い魔方陣に手を触れる。


まどかちゃんも、遠慮がちにそれに続いて。

ガチャリと、大きな鍵が開け放たれた音。

それにびくついている間もなく、颯爽と中司さんが扉を開け放ち、中へと入ってゆく。



「はりきってるなぁ」

「ははは」


やっぱりそれだけアキちゃんに先を越されたのが腹に据えかねているのだろうか。

のんきな快君の言葉に、苦笑いを深めたオレたちはその後に続く。



その先にあったのは、さほど広くない……外にもあったあの白塗りの壁に囲まれた部屋だった。

それ以外は何もない。


嫌な予感。

それは漠然としたものであったが。

そう思ったまさにその瞬間だ。




「な、な何っ?」

「この揺れは……足元っ!」


周りじゅうから聞こえてくる地鳴り。


「……っわっ」

「きゃあっ」


地震だ! と注意を促すより先に、視界が空の色に染まった。

それが、足元の地面が隆起して、オレたちを跳ね飛ばしたんだと気付く間もなく。



「ぐっ」


オレはその瞬間、誰かに掴もうと必死にもがいた。

突然破られた平穏に対処しきれなくて、パニックになっていたけど。

このまま、こんな心地いい空間は二度と失われてしまうような気がして、ひたすら手を伸ばす。


みんなを衝撃から庇うためにやった、と言えば聞こえはいいが。

それは単純に未知の恐怖にかられて何でもいいから縋りたかったからなのかもしれない。



その瞬間、誰かの腕を掴んだのは間違いなかった。

そして、オレはそれに安堵したのがいけなかったのか。

衝撃に誘われるままに、意識の電源がぷつりと切れるのを感じていて……。



     (第26話につづく)






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