第24話、熱血全力少年、意を決して生成の鳥籠姫をデートに誘う
「……やっぱり目的は同じなわけね。抜け駆けなんか許さないんだから」
そんなはずはないと。
思わず呆然としてしまったオレの心情とは裏腹に。
暗い感情のこもった中司さんの呟き。
自分が責めされているような気になって、思わずびくりと肩を震わせる。
「追いかけるわよ」
「りょーかーいっ」
低い、有無を言わせない中司さんの呟き。
朗らかにそれに答える快君。
何故そこまでして……続く言葉は出てこない。
ただ戸惑うオレたちを置いて二人は黒い建物の中へと入っていってしまう。
「ち、ちょっと」
「……」
慌てて追いかけようとしたんだけど。
まどかちゃんがそこに立ち止まったまま動く様子を見せていなかった。
振り向くと、何だかとても複雑そうな表情で、彼女は立ち尽くしていた。
それは、直接見たのは初めてであるはずなのに。
どこか馴染みがある、そんな表情で。
締めるのは恐怖、怯え、戸惑い。
だけどその中には確かに諦観のようなものが含まれている。
「三輪さん? えっと」
それがとても気になって、声をかけたオレだったけど。
何も言わぬまま視線だけ合わされて、たじろぐ。
思わず逸らしそうになった視線、我慢できたのは奇跡に近かったかもしれない。
「もしかして、お化け屋敷、嫌い?」
オレはそれを誤魔化すようにして会話の糸口を掴もうと、そう切り出す。
「……それは、ないこともないですけど」
言葉返すまどかちゃんには、さっきまでの明るさが消えかかっていた。
黒い建物に向けようとした視線を、逃げるように逸らす。
それだけ苦手なんだろう。
しかも、今なかには黒服たちもいる。
当然まどかちゃんとしてはそんなところに行きたくないはずで。
そこまで考えて今更ながら思い出したのは。
まどかちゃんがここの従業員、であると言うことだった。
ほとんど無意識にそれじゃあ行こうか、などと言おうとしてもう一つ気づかされることがあって、オレは口ごもる。
オレの中でいつの間にか彼女と行動するのが当たり前になってしまっていた。
「えっと、仕事の時間とか大丈夫?」
「……え?」
まどかちゃんは質問の意図が分からないかのように首をかしげる。
「ほら、今さ、ここまで案内してもらったんだけど、仕事とかあったんじゃないの?」
「あ、うん。今日のお仕事は、もう終わりですから」
「そうなんだ、それじゃあ。どうしようか?」
ここでお別れする。
わざわざ嫌いな場所について来てもらう義理はない。
そんな単語は、オレの口からは出てこない。
喉の奥で詰まったように止まっていた。
それは間違いなく、オレが嫌だったからで。
オレの我が侭だったんだと思う。
「中に入らないで反対側に行くことってできそう?」
「あ、その。来た道を引き返して大回りしなくちゃいけないと思います」
オレの折衷案に、ほんの僅かだけまどかちゃんの声に力が戻る。
何だかそれが、ここでお別れだなんて嫌だっていうオレの一方的な考えを肯定してくれてる気がして。
そんなわけないだろってオレは首を振る。
「そうか、参ったな。二人の後を追いかけなきゃだし、アキちゃん、しおりないと困るだろうしなぁ」
「……」
その時、まどかちゃんの表情がかげるのが分かった。
それはまるで迷子の子供が縋るものを求めているかのようで。
期待してもいいかなって、そんな馬鹿なことを考えてて。
「先にさ、その。言いにくいんだけど、オレ、お化け屋敷苦手なんだよね。一人ではいる勇気全くないんだ。三輪さんがよければでいいんだけどこのままもうちょっと付き合ってくれないかなあ? 話し相手がいた方が楽しいし、どう?」
駄目で元々で、オレはそう切り出してみる。
するとまどかちゃんは呆気に取られたような顔をして。
「で、でも、いいんですか? わたし、迷惑じゃ。そのあきさんって人だって、雄太さんのこと待ってるんじゃ」
それは、勘違いを如実に表わす、まどかちゃんの言葉。
意識せずとも緩みそうになるのを、オレは必死で我慢する。
「全然、迷惑じゃないよ。アキちゃん、幼馴染なんだけど、可愛い女の子大好き少年だだからさ。むしろこっちが迷惑かけるかもしれないし」
オレも大好きだけどって一言が出なかったのは、果たして良かったのか悪かったのか。
とたん、ばっと火が灯るみたいに、まどかちゃんの顔が真っ赤に染まる。
オレはその時、それはまどかちゃんが勘違いをしていたせいだろうって思ってたけど。
よくよく考えてみると、自分がとてもこっ恥ずかしい事を言っているのに気付いて。
「お、お手数かけますが、もしよろしければ、中を案内してもらえると」
オレは誤魔化すように、伺うように、再度そう問いかける。
沈黙。
それは対した時間じゃなかったんだろうけど、オレには凄く凄く長く思えて。
「は、はい、わたしでよければ」
やがて返ってきたのは、心底安心したような、そんな言葉で。
オレが誘ったことをむしろ望んでいたかのようで、なんだかくすぐったくて……。
(第25話につづく)
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