第23話、熱血全力少年、究極善人優男の残滓を発見する


賛否両論あったけど、個人的には楽しかったジェットコースターを抜けると。

目的地はもう目と鼻の先だった。



「あ、ここだよ、ほら」


まどかちゃんが指し示す方向を見ると。

確かに白塗りの壁で覆われ袋小路になっている一角に、かなり気合いの入った装飾の木箱がある。



「……意外と、何でもない所にあるんだな」


思わず口について出たように、オレが思ったことはそれだった。

もっとも、まどかちゃんの後ろについてきたからこそ、簡単に見つかったのかもしれないが。


「どれどれ?」


快君が、顔に似合わないもみ手をしながら木箱に近付く。

罠とかがあったらどうするんだというドラマティックな展開もなく。


快君が木箱を開けて取り出したのは、まどかちゃんの持っていた巻物と似た材質……羊紙皮でできている地図だった。

さっそく広げてみると、それは入り口で見た巨大マップと同じようなつくりをしていた。



「ふむ、この×印の所が黒陽石のある広場じゃないかしら」


そして、中司さんが先ほど従業員の老人に聞いたアドバイスをもとに目的地を割り出す。

あっさりと目的地を示して見せるから。

その頭の中では、オレには理解しがたい理論が展開してるんだろなって勝手に思っていたりして。


「『プリヴェーニア』がここで、さっきのおおきな花壇のある広場がここだから……あら、もうすぐそこじゃない? この『雨の魔物の館』って、お化け屋敷か何かかしら。ここを抜ければすぐよ」


×印は地図の上側、北の方角にあった。

そこはたしか入り口の地図で、『フォーテイン』と言った名前の広場だったはずだ。

その間に通せんぼするみたいに、中司さんの言うアトラクションがある。

確かに、今まで歩いてきた感覚で判断しても、それほど遠くはなさそうだった。



「よし、じゃあ、今すぐレッツゴーだね!」


快君が、気合いの入った声をあげる。

それに応! と答えて。

オレたちは、前進している感覚に、意気揚々と歩を進めたのだった……。







「ストップ」


そして。

そろそろ何かしらのアトラクションが行く手を阻むだろうと予想される場所まで来て。

オレは低く声を発し、三人を制した。


四メートルには足りないが故に後退拡張が必要になってくる、両側の自身の土地をきっちり主張しようとする白い壁が、急になくなっている。


道が拡幅され、広がっているのだ。

おそらくその先は広場になっていて。

件のアトラクションの一つがあるのだろう。

オレが皆を制したのは、人の気配を感じたからだった。


それも一人じゃない。

大勢の、あまり心楽しくはなりそうもない野卑た声だ。

おそらく、バスの……黒服の奴らだろう。

壁に張り付くようにして、オレは開けたほうを伺ってみる。


すると最初に目に飛び込んできたのは、相当に広く高い……大手の量販店くらいの大きさはありそうな、真っ黒な壁の建物だった。

周りの白壁と対比して、心に染み込んでいきそうな黒だ。


その入り口らしき所には、薄い赤の文字で『雨の魔物の館』とある。

そのすぐ下、玄関らしき屋根の上には、ここに来て初めて見る(もしかしたら一匹しかいないのかもしれない)三輪ランドのマスコットであるらしいミワが、空ろな目をして座っていた。


その建物を眺めるように、五人ほどの黒服たち。

何がおかしいのか、下卑た笑いとともに、ちょっと興奮してるようにも見える。



「あの黒い建物は、お化け屋敷か何かかな」

「えっと。雨の魔物の館、ですよね。わたし、奥まで入ったことがないから……多分そうだと思いますけど」


一端身体を引っ込めそう聞くと、まどかちゃんもお化け屋敷と言う単語に反応したのか、不安げに頷いている。

ジェットコースターは好きだけどお化け屋敷は苦手か。

そんなところも俺と似ているのか、なんて思うのは。

勘違いも甚だしいかなって感じだったけど。



「あ、あいつら中に入っちゃったよ」


そんな事を考えていると、オレの代わりに通路の先を見据えていた快君が、そんな事を言った。

言われてみれば、黒服たちの姿がない。

単純にこのお化け屋敷に用があるとは思えないから、おそらくは彼らも目的は同じなのだろう。

中司さんの言う、隠し財産とやらが目当てなのかもしれない。


「先越される前に急がなきゃ」

「いや、急ぐのはいいけどさ、奴らは入ったばかりだし、鉢合わせするかもしれないよ?」

「その時はその時よ。雄太の格闘技と、私のコレで蹴散らしてやればいい」


どうやら黒服同士に連携や繋がりはないらしく、最初に接触以降、因縁をつけられるようなことはなかった。

それを考えると、まどかちゃんにちょっかいをかけてきたような奴らばかりじゃないのかなって気はするんだけど。

中司さんの目は本気だった。



「や、オレに期待されても困るんだけど、なんちゃってだし」


それに元々、人に向けるようなものでもなかった。

かといって、じゃあ何に向けるのかと聞かれれば返答に困ってしまうわけだが。


「ん? あれって……」


と、警戒心の強い小動物のように何かに気付いたらしい快君が、黒い館の入り口付近まで駆け出す。

そして、しゃがみ込んで何かを拾うと、すぐさま戻ってきた。


それは、砂にまみれたしおりだ。

オレたちが持っているのと同じもの。



「これ……」

「アキちゃんのだ!」


快君が指し示すよりも早く、オレは叫んでいた。


やっぱりアキちゃんはここに来ていた。

しかも一足先に、オレに何も言わずに。



それは。

いつものアキちゃんならありえない行動だったから。

それが落ちていることが信じられなかったからこその名前呼び、だったのかもしれない……。



   (第24話につづく)






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