第18話、熱血全力少年、幼少の砌に耳にした、ありがとうのうたを思い出す




相変わらずの、黒曜石に対しての熱意が凄い中司さん。

まどかちゃんがもしかしたらと声を上げたから。

そのボルテージは益々上がっていて。


「宝箱ですって!? それって、どこにあるのか分かる?」

「あ、はい。宝箱なら見かけたことがあります。この辺りはお花のお手入れのためによく来るから……」


そうか、ここの花壇はまどかちゃんが手入れしていたのか。

何だか絵になるなあ。


「さっきのおじいさんも、そんなこと言ってたよね、やっぱり本当なんだっ! じゃあ、案内してもらってもいい?」


探し求めていた物に、確実性が増してきたせいか、快君はかなりハイテンションだった。

かく言うオレも、さっきからテンションが上がりっぱなしなのは自覚してはいる。


まどかちゃんと話していると、楽しかったり、嬉しかったり……そんなプラスの感情が、どんどん溢れ出てくる。

こういうのもカリスマ性があるって言うのかどうかは分からないけれど、不思議な魅力を持った子だなと思った。



「くすっ。それじゃ、ついて来てください。本当は自分で探してこそのアトラクションなんだけど、さっき助けてもらったし、特別ですよ」

「うん、お願いするよ」


まどかちゃんの花咲いたような微笑みを受け、ますます気分良くなったオレはそう言うと。

さっそくまどかちゃんの後について、宝箱を見かけた、という場所へと向かうことにする。





オレたち四人はその道すがら、本当に色々な話をした。

まるでオレたちは、十数年来の顔なじみであるかのように、腹割って話すまで……って言うのは大げさなのかもしれないけれど。


最初は敬語混じりだったまどかちゃんも、元々敬語を使うのには慣れていなかったらしく、すぐにくだけた、おそらく普段通りの喋り方になっていた。


その様が、オレをそんな気分にさせたのだろう。

それだけでまどかちゃんとの距離が近くなった気がして。

それだけでオレは、とても嬉しい気持ちになっていて。



そんなまどかちゃんは、宝箱のある場所へ案内すると言ってくれたけれど。

宝箱自体はこの三輪ランドのありとあらゆる場所にあるらしい。

全てを案内してもらおうとすれば日が暮れてしまうし、まどかちゃん自身もその全てを知っているわけではないそうで。


今向かっているのは、まどかちゃんがよく足を運び、よく知る場所の一つだった。

そのためにはまず、広大な庭園地帯を抜け、いくつかのアトラクションを越えて行かねばならないようだ。

三輪ランドの厄介なところは、アトラクションとその間の通路は繋がっていて、体験せずに脇を通過する、ということができない点にある。


感覚的にはエスカレーターに近いだろうか。

一度乗れば、引き返すことは終わるまでできない。

乗った場所に戻るには、もう一度アトラクションを体験しなくてはならない。


本当に、子供連れの大人泣かせだ。

そのぶん、他の遊園地より休憩所が多そうなのは、せめてもの救いだったろうけど。



そんなわけでオレたちが最初に踏み込んだのは、花々でできた大迷路だった。

『ラビ・ラビ・フラワー』と呼ばれるアトラクション。


この三輪ランド自体が一筋縄ではいかないダンジョンのようなものである代わりに。行く手を阻む花の壁は背が低く、それでも広いぶん純粋にそれは楽しめそうで。



「それにしてもさ。この辺りって、虫とか全然いないんだね」

「虫っ? そんなのいないにこしたことないでしょう?」


さりげなく辺りを見回しつつ、引き気味にそう言う中司さん。

確かにそうだけど、快君の言うことも、もっともだった。


「そう言えばいないよな、虫。こんなにたくさん地面があるんだから、蟻くらいいそうなものだけど」

「うん、わたしも見たことないよ」


大変と言うよりは、何だかまどかちゃんの声色は寂しそうで、オレは思わず訊いてしまった。


「虫っていうか、害虫がいないのは良い事じゃないの?」

「うん、そうなんですけど。お花を育てるのって、そういうお世話する大変さがあるから、育ててよかったって思えるし、逆に虫さんとかいないと、何だかお花がお花じゃないものに見えちゃう時があるんです」

「……」


それはまるで生きていないかのように。

沈んだまま何かを吐露するかのようなまどかちゃんの言葉には、単純にそれだけでなく、何かが含まれているような気がして、沈黙が怖かった。


オレが、そんなまどかちゃんの言葉に対して何か言わなきゃって思っていると、口を出したのは快君だった。


「そっかあ。それじゃあ、ここに住んでる人たちは、『ありがとうのうた』、きっと知らないね」

「ん? なんだっけそれ?」


しみじみと、一見関係のなさそうな話題をふってくる快君に、オレは呆気に取られてそう聞き返す。



「ええっ? 雄太くんは知ってるでしょ?」


驚いたように快君に言われ、オレはしばし考えてみる。

そして、すぐに答えに気付いて、噴き出してしまった。


「ぶふっ。何を言うかと思えばっ。た、確かにそうかもしれないけどっ」


二人して思いがけず笑い出し、意味の伝わっていないまどかちゃんと中司さんは?マークを浮かべている。

おかげで、今さっきあったはずの暗くなりかけた雰囲気はどこかに行ってしまった。


まさか、狙ってやったわけではないだろうけど、

やがて、二人だけで面白おかしくしているのが気に入らなかったのか、中司さんが言った。


「何よ、二人してっ、その『ありがとうのうた』ってなんなのよっ!」

「知らない? 知らないの? 『ありがとうのうた』だよ。田吾作さんが~♪で始まるんだ」


田吾作さんて誰やねん、と突っ込まれる前に。

そのフレーズに反応したのはまどかちゃんだった。


「あ、知ってる! 知ってるよわたし、その歌!」


まるで飛び跳ねんばかりに、喜びを露わにするまどかちゃん。


「……続きは? それだけじゃ、知っている歌かどうか分からないわ」


対して、自分だけ知らないのが気に食わなかったらしく、そんな言い訳をしてくる中司さん。

それを聞いた快君は、待ってました! とばかりに、それに応じる。


「うん、分かったよ。実際歌ってみるから、聞いてて? さあ、みなさん! ご一緒にーっ!」


合いの手を打ち、そのまま前奏を歌いだす快君。

まどかちゃんも乗り気で手を叩いてる。


そして、オレもかよって思う一方で。

その後に続かずにはいられないオレがいて……。



    (第19話につづく)






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