第5話、熱血全力少年、実は少しタイプだなどとは口が裂けても言えず



当然のごとく、オレには女性の気持ちが理解できるはずもないから。

あまり長居をしない方が良さそうだと。

勝手にそう決めて、明日の準備というか下調べをすることにする。



(まずはっと)


旅のしおりだ。

毎回ご苦労にも部長が手ずから用意してくれるそれさえあれば、基本的にわざわざ何かを知っておくことや調べなければならないことなんてないくらい、事細かにこれからオレたちが行く場所のことが書かれている。


加えてこのしおりが研究するべく場所に立ち入るための許可証も兼ねていた。

だが、今回は『立禁』の場所であるからあまり意味はなさないのかもしれない。

それに、実はグループのリーダーに選ばれたのは初めてのことだったので、ある程度は自分でも調べておかなければ、なんて思ったのだ。


地図や過去の新聞が載ったもの。超常現象についての本を脇に置くと、小さいけど結構ページのあるそれを開く。



(今回の目的地は、三輪ランド。地方の遊園地の跡地だったっけ)


まず一ページ目に書かれていたのは、『雄太班の行き先』だった。

しかも、閉園してからまだ数年ほどしか経っていないらしい。

いかにも何かがあって、何かがいそうな年季はなさそうだったけれど。

詳しい所在地などは後にして、次のページ、今回の旅……研究の目的を知ることにする。



―――雨の魔物と神隠しについての調査、解明。



そこに書かれていたのはその一言だけ。

まぁ、目的なわけだから簡潔なのは悪くないんだろう。

神隠しのことも雨の魔物とやらの事も部長の事だから調べてあるはずだろうし。


神隠し……人がいなくなるという事件は結構多い。

科学的に解明できるものも、あるにはあるのだろうけど。

大半は原因が分からないままだ。

立ち入り禁止である理由は、そこら辺にあるのかなと、そう思って。



「なんだって?」


三ページ目に書かれていたのは、今まさに考えていた『立禁』の理由だった。

それが意外で思わず声をあげてしまうオレ。

周りに人が少なかったのは幸いしたけど、相対の席の峰村さんと目があう。

そのどこか眠そうにも見える瞳は、無言で訴えかけているようだった。

いきなり声をあげるんじゃない、って感じに。


「ご、ごめん」


オレが声のボリュームを抑えて頭を下げると、しかし峰村さんは表情変えぬままに首を振った。


「お、オレ、学習室移動するね」


このままでは迷惑かけるだけだと、言わなくてもいい事を口にして、オレは席を立とうとする。

しかし、峰村さんはそれにすら首を振って、


「別に謝らなくていいです。あまり人もいないし、大声を出して騒いだりしてるわけじゃないんですから」


怒ってるようなそうでないような、低いけど甘い声。

つまりオレはどうすればいいんだと混乱しつつ固まっていると、そんなオレに気付いたのかそうでないのか、さらに峰村さんは続けた。



「それより、実地体験の下調べですか? わざわざ図書館にまで来て」


その前の言葉が、自分が喋るための理由付けだった、そう思えるくらいに。

ひそめることもなく、話しかけてくる峰村さん。

珍しいこともあるもんだとは思ったけれど、彼女も国内組のメンバーの一人のなわけで。参加するつもりなら気にはなるんだろう。

オレはそう納得し、浮かしていた腰を再び落ち着かせてそれに答える。


「うん。まあ、一応リーダーだからね。調べておこうかなって思って」

「……ああ、国内組は一年生のみですし、仕方ないですね」


それにより返ってきた言葉は、なかなかにぐさりとオレの心を抉るものだった。

でも、その通りなんだろう。

たまたま国内組は一年生しかいなくて、たまたまオレが選ばれたにすぎない。


何も見えず、知らず、感じることのできないオレが選ばれたのは、部長の気まぐれかはたまた嫌がらせだろう。

リーダーと呼べるに値するものがないのはよく分かっている。


「うん、仕方ない。そこは一つ、我慢と言うことで」


それは事実ではあるが、卑屈なのは嫌われるらしい。

これといってがっついて好かれたいなどとは言えないが、少なくとも嫌われたくはないので、オレは無難におどけてみせる。


「我慢? すみません。私、永輪くんの言っている意味がよく分からないです」


だが、それは見事に空回りしてしまったらしい。


「一体何を我慢するんですか?」


すかさず、痛いところをついてくる。

オレは慌てふためいて。


「いや、ほら。やっぱり国内より海外の方がいいでしょ? 同じお金取られてるわけだしさ」


そんな風に誤魔化す。

それでも峰村さんはふるふると首を振る。


「いいえ、そんなことはないです。私はどちらかと言うと海外の方が面倒くさいので」


オレだってそうだよって言いたかったけど。

そこでそう言ったら収拾がつかなくなりそうだったので。

だったらいいんだ、なんて言って。

オレはその話をそれ以上つつかれる前にと。

さっさと終えてしまうことにして……。



    (第6話につづく)






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