第4話、熱血全力少年、大型武器使い少女と遭遇
名ばかりとはいえ、オレは部長からグループリーダーの任を仰せつかることなった。
前倒しになってる給料日の次の日。
九月二十日と言えば、なんともう明日だった。
学生の懐を考慮して、バイトなどの一般的な給料日の次の日に行われることは入部した時に教えられていたとはいえ。
前日になって焦る破目になるとは、迂闊だった。
ただの旅行ならばいいが、実地体験にはそれなりの準備がいる。
一応自由参加なので、運悪く一人ぼっちになってもいいように、現地の観光スポットなどもついでに調べておこう。
オレはそう思い立ち、大学内にある図書館(五階建て)に足を踏み入れたわけだが。
(なんか今日、人いないな)
学生と言えば何をするにしても一番の溜まり場になるのが図書館であるはずなのに。
珍しく人はまばらだった。
オレはどちらかというと図書館では静かに過ごしたいタイプだったから、こりゃいいやって気分で。足音の立たない絨毯を踏みしめ、目的の書架へと向かう。
いくつか見て回ったけど、最終的にやってきたのはもちろん、不思議、怪異、超常現象の棚だ。
一昔前までは(これも部長談)しっかりと区別されるべきジャンルですらなく、たとえ纏められていてもどこにあるかも分からないようなひっそりとした場所にあったらしい。
だが今となっては、三階に降り立ってすぐで目立つ、勉強机の近い一番広いスペースを陣取っている。
この大学の超研がそこそこ名も知れていて、部長の強力なプッシュがあったから、と言うのも原因の一つとしてはあると思うけれど。
不思議の本たちが、日陰に隠れることなく堂々としていられるのは、全て世界がそう言う方向へと動いているからなんだろう。
想定していた金融危機も、環境破壊も今や二の次、三の次の問題だ。
いや、オレとしては不思議が世界じゅうに跋扈したおかげで、経済危機と呼べるものではなくなったし、むしろ破壊されたのは環境じゃなくて今まで当たり前とされていた事が壊されたんだって思っている。
逆に、今現実として起こっているとされる不思議が環境の変異じゃないか、とも言われていた。
最初に起こった不思議は、オレの記憶してる限りでは、超能力者の大量発生だったと思う。
テレポートにテレパシーにパイロキネシス。
人が考え付いていたものなら、それこそ余すことなく。
それらは、しばらくすると流行性感冒のようになりを潜めてしまったけど。
それからというもの、模倣し続くかのように様々なことが世界で起こった。
曰く、たくさんの翼を生やした人間たちの棲家を発見した、とか。
集団で本の世界に紛れ込んだ、とか。
海に真っ黒な太陽が落ちたとか。
魔物としか呼べぬ異形が町を襲って、助けてくれたのは妖怪としか呼べぬ方たちだった、とか。
上げてみればキリがない。
そのほとんどがテレビやネットなどの情報であったから。
オレにとっては、バラエティ番組を見るのと同じような感覚で実感はあんまりなかったけれど。
少なくとも今世界では、不思議が起こることは実感の得られるものなんだろう。
でなきゃ日本超常現象対策庁の推移と発展、なんて本が並ばないだろうし。
オレは、その棚から使えそうな本をいくつか抜き出し、下階で物色してきたものとまとめて抱え、席につく。
「あ……どうも」
「……」
人がまばらとはいえ、さすがに全くいないわけでもなくて。
四つの席のうち三つが空いていた席を運んで本を置くと、対角線にいた女の子がオレに気付き、無言のままぺこりと頭を下げる。
この場所が図書館であるため、言葉を発しないのは当然と言えばそうなのだが。
彼女は元々、無口であまり表情の変わらない……そんな人だった。
峰村沙紀(みねむら・さき)さん。
オレと同じ一年生で、『超研』に属している。
ちなみに今回の実地体験、オレと同じ国内組でもある。
そっけなくもそれだけで視線を本に戻してしまったが、それは別に悪いことじゃないだろう。
峰村さんがどう思ってるかはともかくとして、その距離感がオレは嫌いじゃなかった。
何故ならオレは、異性が苦手だからだ。
いや、苦手というかオレなんかがって感覚が常にある。
恐れ多くて、びくびくしている。
それを表には出さないようにはしているつもりだったけど、うまくいっているかどうかは正直自信がなかった。
それでも、彼女はサークルのメンバーの中では、近くにいてもさほど緊張しないほうだろう。
理由はいくつかあるけど、よくも悪くもあまりオレに干渉しないからだ。
とはいえ、傍目から見ればちょっと影のあるミステリアスな美少女だ。
我ながらベタな表現だとは思うが、そんな言葉がまさにぴったりとはまるのだから仕方がない。
いるだけで迷惑がかかるんじゃないだろうかって気にはなる。
あまり長居はしないほうがよさそうだ。
オレは勝手にそう決めて、明日の準備というか下調べをすることにした……。
(第5話につづく)
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます