第6話、熱血全力少年、遅ればせながら社会不適合者であると気づく
「……そう言えば、今回の実地体験は立ち入り禁止区域だそうですが」
これ以上邪魔はしないように、自分のことに没頭するかなって思ったんだけど。
いつの間にやらオレのしおりは、オレから見て真横を向いていた。
自分にも見えるように峰村さんが引っ張ったんだろう。
まさか奪い返すわけにもいかず、オレはその言葉に頷く。
「ああ、うん。国が規制してるんだってね。国が何か良からぬ事を隠蔽している可能性があるって、こりゃまた大きく出たって感じだけど」
そう、『立禁』の理由として書かれていたのはその事だった。
奇怪な、身の危険が及ぶような何かが起こるから、ではなく。
「まぁ、あくまで可能性だから話半分で考えたほうがいいのかもしれないけど」
「そうですか? でも確か大勢の人がいなくなってるのは事実で……」
オレの楽観に反論するみたいな峰村さんの言葉。
つまり神隠しなんて不確定なものではなく、実際に失踪事件が起こっていると言いたいんだろう。
その辺りは、過去の新聞の記事を見ればすぐに分かるはずだ。
オレはなるほどと頷いて、前言撤回しようとしたけど。
「ちょっと……ごめんなさい」
びくりとなって急に立ち上がるから、びっくりしてオレも固まってしまう。
何事かと思っていると、駆け寄ったのは図書館に備え付けの電話ボックスだった。
携帯をかける時に使うあれだ。
どうやら誰かから電話がかかってきたらしい。
ずっと見てるのもなんなので、言われたことを確認しようと、まずは三輪ランドなる場所がどこにあるのか詳しく調べてみることにする。
しおりに載っていた三輪ランドの所在地は、先に述べた通り、オレの生まれ故郷……いや、幼少を過ごした場所の隣の市だ。
市自体は、何度か遊びに行ったこともあるし、出身高校もそこにある。
市の中心部から、大げさなほど遠くはない。
今まで足を運んだことはなかったが、これなら行くまでの順路で手間取ることもないだろう。
我が故郷は、今や都市近郊から新幹線を使い、一時間そこらで行ける場所だ。
しかも、その新幹線の終着駅から三輪ランドまでのバスまで出ているらしい。
駅から十分と離れると寂れるような場所だが、オレの感覚としてはバスが行けるなら歩きだって充分行けるだろう。
(というより、五千円を持って乗車したら乗車拒否されたことがあって、バスはあんまり好きじゃないだけだけど)
そんなわけでそこであった事件より先に、駅からの地図を印刷しておこうとパソコン席に向かうために席を立とうとすると。
電話が終わったのかちょうど峰村さんと鉢合わせた。
「永輪くん、ごめんなさい。久保田くんに呼ばれたから、もう行かなくちゃいけないの」
「アキちゃん? 待ち合わせしてたんだ」
久保田昭良(くぼた・あきよし)。
通称アキちゃんは小学校からの付き合いのある友達だ。
峰村さんに電話した、その内容もなんとなく把握できる。
一見軽そうな雰囲気のあるアキちゃんだけど、きっと一大決心をして電話したに違いない。
「別にそう言うわけじゃないです。けど、ほっとおくと面倒なので」
オレが笑ってそう言うと、ぷいと顔を逸らし、そっけないお答えが返ってくる。
おお、意外と脈がありそうだ。
オレは勝手に、そんな事を思ったりなんかして。
「まぁまぁ、そう言わずに。きっと緊張して手に汗握る思いで電話してるはずだしさ」
「久保田くんがそう言う人間ならよかったんですけどね」
真実に気付くことはなく、峰村さんは呆れたようにため息。
これ以上何やかや言うのも野暮だろう。
荷物をまとめる峰村さんに、いってらっしゃいと一言残してパソコンに向かおうとすると、その後ろ手に声がかかる。
「すみません、また明日手伝いますから」
「……あ、うん」
明日は当日なんですけど。
そんなツッコミが声に出して言えれば、などとは思うけれど。
オレは頷いてただ見送ることしかできなかった。
その、峰村さんの小さな背中が見えなくなるのを確認してから、改めてパソコン席につき、駅から三輪ランドまでの道のりを印刷する。
まぁ、それですらしおりには簡単なものが載っているから、取り立ててそれをする意味はないわけだけど。
「彼女ほしー」
周りに誰もいないのが分かってて、のろのろと吐き出されるコピー用紙を眺めながらぽつりと漏らす。
そしてどの口が言うのかと苦笑するのだ。
峰村さんや部活のみんなはまだいい方だ。
自意識過剰も甚だしい、もしかしてという可能性がないからまだ普通に話せる。
その呟きがたとえ本音だとしたって、自分から動く気がないんだから困りもので。
心や夢でいくら願っても、現実では行動する気にならない。
努力する気にならない。
いや、自分からは何もせず努力もせずに、棚から牡丹餅を期待してるんだ。
そう言う意味では、我が友人は凄いと思う。
勇気があるんだ。
それは、オレにはないもので。
たぶん、生物として男として駄目なんだと思う。
現実に恋人などいなくても生きていける。
どこかそう考えている節のあるオレは、きっと社会不適合者なのかもしれない。
我ながら気分の下降するような考えを払拭するように。
オレは再び席に戻って調べ物を続けることにした……。
(第7話につづく)
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