口悪ロリっ子総隊長
「……赤レンガ倉庫?」
使徒が残した紙を見ながら歩く事数十分。目的地にたどり着いたノアが見たのは、赤いレンガで構成された三階建ての建物だった。
建物の周りには広大な敷地があり、そこら中に小さな建物が点々と建っている。それらも全部レンガで出来ているので、それを見たノアの頭には明治時代の日本の姿がよぎっていた。
(やはりここら辺の文明はいささか古い気がする。とはいえ日も暮れ始めている、早く総隊長室とやらに行かないと)
ノアは敷地内に入り、一番大きな建物に向かって歩き始める。それから建物の中に入り、階段を上って総隊長室のまえにたどり着いたノア。
(確か、日本じゃノックは三回だっけ? 一回少ないの凄い違和感あるけど……それが風習だもんね)
ノアは三回扉を叩く。しかし返事がないので「入りますよ」と一言断りを入れてから中に入る。そんなノアが部屋に入って見た光景は――黒髪赤目の少女の前で、彼女より背丈が二倍はあろう三人の男達が土下座をしているという物だった。
少女はスカジャンの下に死に装束を着るという特異な服装をしており、ソレが尚のことこの状況の異質さを際立たせている。
「何度目だ、おい。メンタルが不調な隊員を無理矢理任務に引きずり出して死なせたの」
「本当に申し訳ございませんでした」
「謝りゃそいつは生き返るのか? 今テメェに許されてんのは、こんなくだらない事は二度と起こさねえと今ここで固く誓うことだけだ」
「それは……」
「大体お前らにはモラルが足りねえんだよ。精神面の健康が隊士の実力に直結すると何度言わせるつもりだ? 次からは隊士の心的不調に目を配り、少しでも気落ちしてるようだったら休暇を言い渡せ。いいな?」
「でもそうすると――」
「言い訳は要らねえからさっさとはいって言え。それともまた白虎隊からやり直すか?」
「「「ひ、ひぃっ!! 分かりました! 仰せの通りに!」」」
「分かったらさっさと帰りやがれ。今はお前らの顔を見たくない」
三人の男は立ち上がり、肩を落として部屋を出る。俯いて荒々しい溜息をつく少女。
「あ、あのー」
「あ?」
ノアが勇気を振り絞って声を掛けると、少女は顔を上げてノアの顔をじっくり見始める。
「……ほう? なるほど、確かに使徒の言う通りオレ好みの美人だ。お前、オレの嫁になる気はないか?」
「ええっ!?」
驚いて少しのけぞり、赤面するノア。女性に求婚されるのは、当然初めての経験だ。
「な、ななな何を仰います! しょ、初対面ですよね!?」
「別にオレは気にせんぞ?」
「わ、私が気にするんです! 急に求婚されたら、情緒が……」
「ハハハ、まあ冗談は――いや全く以て冗談じゃないが、一旦置いておこう。鵺へようこそ、ノア・レイン。オレは
「貴女が総隊長ですか、よろしくお願いします」
頭を深く下げてお辞儀をするノア。すぐ頭を上げようとしたが、明理がノアの頭を撫で始めた事で上げるタイミングを失ってしまう。
「見た目で立場を疑わないのは良いことだ! お前は大成するぞ、よしよし」
「あの、頭を上げたいんですけど」
「おっと、すまんすまん。ついでにもう一つ、さっきは見苦しいところを見せちまってすまなかったと謝っておこう」
「いえお構いなく。部下への叱責も大切な仕事ですもんね」
「そうさ。ちなみにアイツらは右から順に四・五・六番隊の隊長だ。まあお前とは関わり合いにならんであろう連中だから、顔なんざ忘れちまっても構わんがな」
「……そうですよね。たかだか一体倒した程度で、それより上の隊に入ろうだなんて甘いですよね」
「逆だ逆、オレは少なくとも四番隊以上の隊にお前を配置するつもりだ。お前は気づいちゃいないだろうが、単独での、しかも鵺に入る前の妖怪討伐は類を見ない功績だぞ」
「なるほど……」
「とはいえだ。たとえ実力が使徒のお墨付きだとしても、本入隊に至るプロセスをすっ飛ばす訳にはいかないのが悩み所だ。悪いが、お前には少し回り道をして貰う」
ノアは少し首をかしげる。何が回り道なのか、よく分からない様子だ。
「お前にはまず白虎隊に入って貰う。白虎隊は鵺の新入隊員が最初に入る所で、妖怪討伐を行うための知識と能力を身につけるべく修行を行う場所だ」
「妖怪の討伐はそれを経てからやる物なんですね」
「だがお前は特訓も無しに妖怪を倒しちまった。だから本来白虎隊に入れる意味は無いはずなんだが――」
「いえ、是非入れて下さい。彼を知り己を知れば百戦殆からず! 白虎隊で学べる知識は、恐らく今以上に私を強くしてくれる気がするんです」
「……お前本当ににアメリカ人か?」
「行きすぎた日本オタクでもあります」
「へぇ。とにかく、白虎隊への入隊に好意的で良かった。それじゃ早速、1階にある虎の間に行ってくれ。教官には既に話を通してある、後はそいつの指示通りに事を進めてくれ」
「分かりました! 行ってきます!」
ノアは明理に背を向け、ドアノブに手を掛ける。扉を少し開けたところでふと動きを止め、ノアは振り返って明理を見る。
「あの、多分私達同年代ですよね」
「そうだな。ちとオレのほうが年下ぐらいか」
「私、今までずっと友達が居なかったんです。なので、貴女とも是非友達になりたいと思ってるのですが」
「お友達から始めませんか、って事か?」
「はい……えっ!? いやいやいや、そう言う意味では無くてですね――」
「オレもな、ずっと友達がいなかったんだよ。そんなオレと仲良くしてくれるなら大歓迎だ。だからいつでもここに来いよ、忙しくなかったら話し相手になるからよ」
「!! ありがとうございます!」
ノアは一礼し、部屋を出て扉を閉める。一人部屋に残された明理は、口元を緩ませながらデスクに座る。
「いいなあ、話せば話すほど好きになる。総隊長になってから今まで嫌なことばかりだったが、今日のこのやり取りだけで全部チャラに出来るわ」
明理はパソコンにUSBメモリを刺し、ヘッドホンを被って動画を再生する。
「何度見ても、コイツの心の強さには感服する……ああ、もう! こんな逸材をどうして早く現場に出してやれないんだ! むずがゆい!」
思わず机を思いっきり叩く明理。手は強く握り込むあまり震え、歯ぎしりも止められずに居る。
「だがこれも、必要なことだ。アイツがやれ『コネで昇進した』だの『上に気に入られたから』だの言われないためにも……オレのような、不快な思いをさせないためにも」
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