キオンと過ごす三度目の冬

 春の間、今後について考えた。


 一人で生きるなら、精霊の力に頼るのをやめる。紡ぎ手として動いていない今、この力は必要ない。

 精霊と共に生きるなら、今まで通り。

 しかしそれは、胸の痛みを感じる日々を過ごすことにもなる。


 キオンが少しずつ、私の心を生き返らせてくれた。これはもう、否定しようがない。もうすぐ会えると思うだけで、鼓動が速まる。

 でも、今ならまだ昔の私に戻れる。一人を寂しく思うのは、心が弱くなった証拠だ。


 そういえば、大切な話の続きを聞いていない。

 

 ベッドに深く腰掛ければ、思い出した。

 涙なんてとうに枯れたと思っていたのに、泣き続けた。そのせいで、キオンは夏と秋の精霊が消えてしまった理由を話すのをやめてしまった。

 後悔しても遅いけれど、思わず預けられた結晶を握る手に力が入る。同時に、目の前に僅かな光が生まれた。


「眠れないの?」


 私の誕生日に来るはずだと、寝ずに待っていた。でもキオンは笑っていない。


「早くキオンと話したくて、起きてたの」


 安心させたくて事実を話す。なのに、キオンの眉はさらに下がった。


「人は眠らないといけない生き物だ。無理をしてはいけない」

「無理してない。その分しっかり寝るから」


 今日は特別な日。

 だから、これからの私の生き方も決める。


「それじゃ、今すぐ眠って」

「その前に、話がしたい」


 一緒に布団の中へ移動する。私は結晶を持っていない方の手で、キオンの手を握った。驚いたように固まった指が、私の指にゆっくりと絡む。

 それだけで、幸せを感じた。


「夏と秋の精霊が眠りについたのはどうして? それに、私は何で春と冬しかないって、教えられているの? 何か、知らない?」


 私はちゃんと、精霊のことも紡ぎ手のことも知ってから、決断したい。


 キオンを見つめれば、灯りのせいで顔を覆う影が深い。


「四季の精霊は、争いに勝利をもたらす。僕達の使い方次第で、飢えさせることも、潤い続けることもできる。そんなこと、僕達は望んでいない」


 繋いだ手に力が込められる。キオンの表情からは、怒りよりも悲しみを強く感じた。


「それを知っていた紡ぎ手や、理解してくれる人々のお陰で、夏と秋は眠ることになった。そして春と冬は、争いに明け暮れる人の心の傷を癒やし、罪と向き合わせるために残された。いつかきっと、争いがなくなると信じて」


 残された?


 言い方が引っ掛かる。だから思わず尋ねた。


「もしかしてキオンも、眠りたかったの?」


 今度は私の手に力が入る。するとキオンはそっと、もう一方の手を重ねてきた。


「その時はね。世界には一季あればいい。だから僕は……」


 俯きかけたキオンの目が大きく開く。

 そして慌てたように顔を上げた。


「それと、二季しかないという教えは、エレナの未来を守るためのものだよ」

「守る? その理由も気になるけれど、何か言いかけたよね?」


 明らかに隠そうとしている。キオンは嘘が下手だ。だから言わせようと、じっと彼の目だけを見つめた。


「これを話すのは、もう少し先の予定なんだ」

「それなら今でもいいじゃない。私は今聞きたい」


 さらに顔を近づける。すると、キオンは観念したように微かに微笑んだ。


「……僕は、世界の変化を感じられなかった。だから、エレナが二十を迎える時、眠りにつく約束をした」


 近いはずなのに、とても遠くで声がした。

 それなのにその言葉は、息が止まるほど私の胸を痛めつけてきた。

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