キオンと過ごす二度目の冬

「会いたかったよ、エレナ」


 暗い朝に響く、柔らかな声。ベッドに増える、久々の温もり。驚いたけれど、すぐに微睡む。

 冬はどうしても眠くなりがちだ。


「まだ眠い?」

「うん……」


 頭を撫でられれば、子供のように甘えたくなる。ここまで無防備になる自分が、よくわからない。

 でも、優しさしか感じない手の心地よさに、すぐに意識は遠のいた。


 ***


 寝坊した朝は忙しい。

 キオンから手伝おうかと言われたが、断った。受け入れたら、これからの生活が辛くなる。キオンも今はここにいるけれど、精霊は気まぐれでもある。

 だから今までと変わらず、私はずっと一人で生きていくのだと言い聞かせていれば、もう昼時になっていた。



「飽きないね」

「本を読む時間は好きだから」


 昼食を食べ終え、詩集を開く。ここにある本は全部読んだ。声に出しても読むし、書き写したりもする。そのお陰で、知識は得られている。

 でも、私が森の外へ行くことはない。だから新しい本は求めない。


「エレナはこの時間をとても大切にしているよね」


 珍しく、キオンがそばに来た。去年は何をするにも、少し離れたところから私を見守る姿勢を崩さなかったのに。唯一距離が近くなるのは、寝起きを共にする時だけ。

 だから不思議に思ってキオンを見上げれば、彼の曇った顔が見えた。


「どうしたの?」


 悲しげなキオンに、そんな言葉しか掛けられない。


「ここに、精霊や紡ぎ手についての本はあるのかな?」

「ないよ。他の誰かが見つけた時、大変なことになるから。そう、祖父母が言ってた」


 気遣えない自分にもやもやしていた気持ちが消える。私の返事に、キオンが泣いてしまいそうに見えたから。

 彼らのことがないものにされたのを、憂いたのかもしれない。

 もしかしたら、紡ぎ手が操られたせいで精霊が戦争の道具として使われていたのを、思い出したのかもしれない。


「それは、そうだね。正しいことだ。じゃあ、どこまで聞いてる?」

「どこまで?」

「今、この世界に春と冬しか季節が残されていない理由は知ってる?」


 何を言っているんだろう?


「季節はずっと二季しかないじゃない」


 私はそう教えられてきた。

 だけど、ふと思い出した。季節の話は春の時だけ話していた気がする。

 すると、キオンの顔から一気に表情が抜け落ちた。

 精霊が絶望した。

 私には、そんな風に感じた。

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