春を迎える
名残惜しそうに何度も振り返り、キオンは別の地域へ冬を運びに行った。毎日抱き締められながら目を覚ましたからか、春なのに肌寒さを感じる。静かすぎる朝に、不安を感じる。
それを忘れさせるように、他の精霊達が姿を現した。
家の中にも外にも、精霊があふれていたことに気付かされる。
「ここ、ここ」
「甘くする?」
彼らが示す場所の土の状態はとても良く、作物が育ちやすいのがわかる。それでもさらに美味しいものを作れるように提案してくる。
昔からずっと、こんな風に話し掛けてくれていたのかもしれない。
「教えてくれてありがとう」
飢えることなく、五体満足で生きている。それはやはり、精霊のお陰。
こんなにたくさんの存在に囲まれることにはまだ慣れないが、小さな妖精姿の彼らに、感謝の念を送る。キオンと違って長い会話はできないが、それでも彼らの喜びはわかる。
「みんな浮かれすぎよ。そんなにたくさん話し掛けたらエレナが疲れてしまうわ」
思わず振り返る。
そこには、キオンと同じような白い布を身にまとう、ふわふわとした緑の長い髪と目の、優しそうな女性が立っていた。
***
灯りを消し、ベッドへ横になる。暗闇の中、昼間のことを思い出す。
ルルーディア。春の精霊の名前。
でも口に出して呼ばなくていいって言われた。キオンが気にするって、何でだろう?
他の精霊もキオンに遠慮して出てこなかったらしい。今はいないから姿を見せているそうだ。私が生まれた時から見守っていたのがキオンだから、彼と私の時間を優先しているらしい。よくわからない話だ。
精霊のことなんて、精霊にしかわからないよね。
見た目は同じでも、種族が違えば考え方は変わる。それは当たり前のことだ。
この生活にも、早く慣れよう。
春の精霊のお陰で、他の精霊が頻繁に話しかけてこなくなった。それでも、あちこちから視線を感じる。だからまぶたを閉じても、孤独が薄らぐ気がした。
そのせいか、人間という生き物からさらにかけ離れた生活へ足を踏み入れた事実に、私はどこか満足していた。
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