どうにも上手くいかないことばかりな件につきまして。







「ところでライリー様、はどのようなご用件で……」


 その視線に耐えられず、きまずくなって目を逸らすとライリーは「あっ」と眼鏡をかけ直した。


「実はルーナさんと同じく眠っていた黒龍が、ようやく目を覚ましたので……もしもルーナさんが先に目覚めているなら、お知らせしておいた方がいいかと……」

「えっ、黒龍が? ライリー様は黒龍の居場所をご存知なのですか⁉」

「はい、それはもちろん……」


 ってことは、このままライリーに黒龍の居場所を案内してもらえば、探す手間が省ける!


「ですが、お取込み中でしたらまた……」

「大丈夫です! 今すぐ話しましょう!」


 大きな声で返事をした私に、ライリーは「へ?」と意外そうな顔をした。ルスエルは少し怪訝そうな顔をして「ライリー」と彼を振り返った。


「ルーナは疲れているから、それはまた……」

「疲れていません! 本当にピンピンしています!」

「疲れてます」

「疲れてないです!」

「疲れてますって!」

「もう、殿下は黙っていてください! ライリー様お願いです!」

反論しながら、私はライリーを見た。ルスエルは不満そうに怪訝そうな顔をしている。

「あ、えっと……」


 と、戸惑いながら私たちを交互に見るライリーは、一度眼鏡を掛け直した。

 するとルスエルが溜息を吐いて、「わかった、話せ」と折れていた。


「は、はい。黒龍が目を覚ましたので、尋問にかけているのですが全く口を開かない状況で、脅しや拷問なども行ったそうなのですが、それでも何も言わない状況が続いているみたいで……」


 平然と出てきた拷問というワードにひやりとする。

 魔獣の王に相当する黒龍相手なのだから、生温いことはしていられないだろうけど……。

 相当惨いことをしていそうだ。


「違う方法で口を開かせようとしているのですが、どうにも難しくて、ルーナさんが目覚めているなら、彼の口を割らせる術を知っているかと何か思ったのですが……」

「し、知ってます!」


 反射的に答えれば、ライリーは至極驚いた顔をして、ルスエルはまた顔を曇らせた。


「本当ですか⁉ わあ、さすがルーナさんです。どのようにすればいいのかわかりますか?」

「は、はい。もちろん……ですが、そのためには……」


 よし、これで黒龍の元へ無事に辿り着ける。


「私が、黒龍の前に連れて行く必要があります!」

「駄目です」


 ルスエルが間髪入れずに否定したので、私ははっと隣を見た。


「だ……だめってなんでですか⁉」

「だってルーナは、あの魔獣の封印のために、身を滅ぼしかけたのですよ? そんなの駄目に決まってます」

「な、何をおっしゃっているんですか! 黒龍の相手が出来るのは私しかいないと、ライリー様もあんなに頼み込んできているというのに‼」

「どこも頼み込んでいる感じには見えませんが。寧ろ、あなたが積極的に黒龍の接触をしたそうな感じです」

「……ぐ」


 ああ言えばこう言う。ルスエルのくせに、いつの間にこんなに可愛くなくなってしまったのだろう。


「で、でも! 黒龍の研究は、国の平和のためには必要なことではありませんか?」

「駄目だと言っているのです! どうしてわからないのですか!」

「理由もなしに駄目だというのは、ただの横暴じゃないですか!」

「だからっ!」


 ルスエルがそこまで言いかけて、はっとした。そしたら咳払いをして。「とにかく」と顔を逸らした。


「あなたが許可もなく、黒龍へ接触することは禁止とします。これは命令です」

「なっ」

「いいですね? もしも無許可で接触したら、それ相応の罰を下しますからそのつもりで」


 やけに冷え切った口調で彼は言うと、そのままライリーの隣まで歩いて行った。


「いいか。わたしが良いと言うまで、余計なことはルーナに言うなよ」

「あ……はい、かしこまりました……」


 心配そうな眼差しで、私を見るライリー。いや、言いたいことはわかる。

 あなたは魔塔の命令で、私を黒龍の元へ連れて行きたいのだと。


「それではルーナ、また夕食時にお会いしましょう。もしも食べられないようなら、またスイーツでも持ってきますね」


 にっこりと微笑み、そのまま背を向けて部屋の外へ出て行ったルスエル。

 その背中を見送り、残されたライリーが「あ……えっと、それでは僕も……」と踵を返そうとした。


「ら、ライリー様!」


 あ、まずい! ここで帰られたらますます彼の居場所がわからなくなる!


「待ってください、まだ話は……っ」


 と、私がそう言いかけた時。


 ガチャリと、今一度部屋の扉が開いて、ルスエルか顔を覗かせた。

 私はその銀色の髪を視認した時、反射的に肩を強張らせて口を噤んだ。

 そんな私の様子を、じっと見た後、彼はにっこりと微笑んで「言い忘れていましたけど」と口を開いた。


「二度と無闇に出歩かないように。もし次も同じことをしてしまったら、例え先生相手でもどうするかわかりませんからね」

「ど……」


 どうするか、とは。


「聞いていますか、ルーナ」

「はっ、はい……わかりました」


 反射的に何度も私を満足気に見た彼は「それでは」と再び微笑んで、今度こそ部屋の外へ出て行く。

 こ、こわ……。


「……それではルーナさん、僕もこれで……」

「え? あ、はい……」


 そそくさと部屋を出て行くライリーに、私は気の抜けた返事をした後、がくりと肩を落とした。


 ど、どうにもうまくいかない!



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