主人公たちの再教育をはじめた件につきまして。
「―――王室の魔法師として配属されることになりました、ルーナ・オルドリッジです。今日から、魔法の教育係としてお仕えいたしますので何卒よろしくお願いいたします、ルスエル様」
十五歳になってすぐ、私は架空の身分をでっちあげ、幼い主人公たちがいる王室魔法師として、雇われることに成功した。
そう。私は、将来的に自分の脅威となる主人公たちを再教育し直すことを考えたのだ!
「―――なんだよ、おまえ。勝手に部屋に入って来るとはなにごとだ!」
あの頃のルスエルは確か七歳くらいだったっけ?
今思い出しても、警戒心が強い子猫みたいで、可愛かったなあ……。
って、そうじゃなくて。
闇属性の魔法使いは、光属性の魔法に弱い。
その逆に、光属性もまた闇属性の魔法に弱いため、これらの魔法は反発し合う。
では何故、私が負けてしまったのか……。
いろいろ考えた結果、ひとつの結論に辿り着いた。
「あれ、ルス? おまえもこの人に魔法学ぶの?」
「お兄様? ど、どうしてここに……?」
「あれ、ルスエル様にソルフィナ様? どうしてあなた方が……?」
「ん? ユルじゃん。おれたち、もしかして一緒に魔法学うけるの?」
幼いルスエルやソルフィナにユル、彼らを一部屋に集めて、私は「コホン」と咳払いをした。
そして、前世仕立てのにっこり営業スマイルを向ける。
「こんにちは、ソルフィナ様にユル様。今日から皆さんに魔法教育をすべてお教えいたします、ルーナ・オルドリッジでございます! みなさんで楽しく、魔法学の基礎を学びましょうね!」
にこにこにこにこにこー。
そんな効果音が顔中に張り付くくらいの笑顔を作って、わたしは瓶底眼鏡をくいっと上げた。
シルバーがかった薄紫色の髪を無造作に結んで、いかにも魔法一筋の魔法オタクで、贅沢なことにはちっとも興味がなさそうなお嬢さんという雰囲気を作り上げた。
誰がどう見てもルーナ・オルドリッジは教育者としてそこそこ優秀だけど、取るに足らない無害な魔法師だ。
この見た目から悪者になることなど今後微塵も考えられないし、疑うこともまずない。
将来的に殺す価値などどこにもないし、相手にすることすら時間の無駄。
そんな、有能だけど阿呆な魔法師を演じることにした。
名付けて、《「ルーナ・オルドリッジ? ああ、確かにいたよね。そんなダサい先生(笑)」程度のイメージを、主人公たちが幼き頃からすり込んでやろう》大作戦である。
「うーわ。なに? このアホそうな先生。貴族? にしては、格好もみすぼらしいね」
案の定、私の思惑にさっそくのって来たのは。
黄金に輝く髪を揺らして、生意気そうな顔をしている、形式上は〝第二王子〟とされているソルフィナだった。
本来は王太子と名乗っても構わない筈の彼は将来的に一見優男風な、極悪非道のサイコパスになるが、原作で予習済なのでこんな小さなちくちく言葉など何のそのである。
「お兄様も思いますか? この者、本当にお父様たちが用意してくださった教育係でしょうか?」
ダイヤモンドのように青く光る銀髪を揺らして不快感を示したのは、この国で〝王太子〟とされているルスエル。
子猫のように愛らしい顔をした彼は将来的にこの国の王様となり、ヒロインとくっつく表紙のど真ん中にいるような男だ。
彼は完全無欠の王子様という性格になるが、裏の顔が……あったような気がするけどあまり覚えていない。とにかく顔がいいっていう描写が多かった気がする。きっと作者の好みだろう。
「先生にしては若いですね。おいくつなんですか?」
警戒心駄々洩れで、失礼な質問を投げるのは彼らの従兄弟であるユル。
彼は一見常識人っぽいけれど、打算的で時と場合によっては彼らの中で最も容赦がなく、死ぬほど冷たい一面がある。だけど確か、時々見せるデレみたいな部分に惚れて、私としては作中最も好きだったキャラ……だったような気もする。
とにかく彼らは、ヒロインと共闘する主人公たちである。
つまり、簡単に言えば一対四の構図がこの時点で出来ているのだ。
―――そうつまり、私が作中でヒロインに負けてしまった理由。それは。
「さあ、ルスエル様。ソルフィナ様。ユル様。さっそくですが、授業をはじめますよ」
圧倒的、数の暴力!
主人公補正のかかった彼らが共闘したのが、運の尽きだったとも言える。
くわえて、最恐の魔獣・黒龍まで主人公側についてしまうし……。
だからどうしても私は……というか、ルーナは何をどう頑張ろうとこてんぱんにやられてしまう運命にあったのだ。
主人公と言うチート存在のせいで!
そんな悪役に転生して、普通なら終わった……と思うけれど。
こうやって彼らが子供の頃に、私が転生したのも何かの縁。
これは神様が私に用意してくれた、いわばチャンスに違いない。
彼らの教育者として、やり直し計画を実行に移せばいい。
だって武力の差で負けてしまったのなら、それをどうにか避ければいい。
このまま原作通りに進むのであれば、彼らの戦力を削ぎ取ってしまえばいいのだ。
魔法だって、彼らには私が扱う闇魔法に対抗する光魔法について、触れさせないようにすればいいだけだし、なんなら、私の力を系譜して逆らえないようにすればいいだけ。
なーんだ超簡単じゃん! などと。
そこから約二年間。
彼らには小説とは真反対の教育を施して、万全に期した。
全力で嫌われてはいたんだけどね……。
だけど、どうにか殺されないであろうほどの些細な好感度上げと危機回避が出来たところで、私は、本来自分が殺される予定だった運命の日を生き抜くために、自らを、向こう百年は目覚めない封印をした……つもりだった。
それなのに。
「どうやって私の封印を解いたんだろう……?」
相当強い魔法をかけていた筈なのに。まさか、たった十一年で起こされるだなんて……。
もしかして、封印魔法が失敗した……とか?
いや、もうそんなことどうだっていい。
だってもう目覚めてしまったんだから。
「ああ、計画が狂った……」
私が主人公たちに殺されるのは、私が自分を封印した十八歳から数えて十二年後だった。
つまり現時点から数えて、来年の話。
……ああ、もう! こうしちゃいられない!
「〝あいつ〟に会いに行かなきゃ……!」
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