第168話 これも一つの結末 2
「んなぁっ――!!」
ギルはその時点で初めて己の危機を察知したようだ。
頭上を仰いで大口を開ける。
そう、敵にダメージを与えるのに、自分自身の力だけに頼る必要はない。
こうして地形を利用するという手もある。
俺は乱撃の一部のみをギルに当て、それ以外は周囲の柱に分散させていたのだ。
ザナドゥの素材が硬かったために時間がかかったが、この辺りの柱は大方破壊した。
そして仕上げに天井部を発破。
柱を失い重量を支えきれなくなった天井が、こうして落下してきたのだ。
ギルがそれに気が付かなかったのは、この魔法の命中率がそこまで高くはないと思っていたからだろう。
実際にはすべて俺の狙い通りだったわけだが。
そしてギルに俺の狙いが悟られないように、絶え間なく魔法も放射した。
さすがに頑丈なギルといえども、あの状況では周囲に気を配る余裕はなかっただろう。
柱は倒壊し、厚さ一メートル以上ある天井はギル目掛けて落下する。
おまけにこのホールの天井は高く、20メートル近くある。
その運動エネルギーは相当なものになるはずだ。
突然の出来事にギルは瞬間移動で逃げる間も無く、天井の下敷きとなる。
はずだった――が、
「ワイルドアッパー!!!」
ギルは吠えながら素手で極厚の天井を打ち上げ、真っ二つに破砕する。
奴はほとんどダメージを受けてはいなかった。
「ガッハッハ! やるなお嬢! だが武人たるもの武器に頼らずとも己の肉体でこの程度の芸当はできるもんだぜ!」
そしていっそ清々しい笑顔でそう豪語する。
「冗談はよせ、素手でアレをカチ割るのなんてお前ぐらいのもんだぜ?」
それは武人というより狂人の範疇だよ!
しかもギルめ、戦闘が進むにつれて水を得た魚のように生き生きとしてきやがる。
まるで戦いを楽しむかのように。
第二等位のエクシード以上の力を持つ者などそうはいまい。
おそらくは、長らく全力で戦える機会が無かったのだろう。
ようやく久方振りに強敵と巡り会えたって面してやがる!
「チッ! 仕切り直しだ!!」
俺は再び走り出す。
だが、ギルに向かってではない。
依然として気炎万丈な奴に近接戦を挑むのはやはり危険。
今の柱の倒壊で崩落した瓦礫の陰に逃げ込む。
天井を落としたもう一つの理由が、こうして逃げ場を作ることでもあった。
口惜しいが、瞬間移動ができるギル相手に自分の姿を晒すのは危険だ。
ここは三十六計逃げるに如かず――
『
が直後にギルの激声と共に、俺の背後で瓦礫が爆ぜ轟音が
そして吹き飛ばされた破片ごと、俺の体も地を転がる。
「はっは! かくれんぼでもしたいのかお嬢? だがこんな障害物、オレにとっては積み木も同然! 隠れ
巻き上がる破片の中から、ギルが姿を現す。
今の技――破壊のされかたから推測すると、ハンマーを振り回しての連続攻撃といったところか?
俺が身を隠した瓦礫が粉々。
まるで爆弾を落としたような破壊力だ。
「どうかな? だが事実、身軽な俺とは違いお前はやりづらいんじゃないか?」
だがそれでも俺は、倒れた柱を飛び越し一際大きな瓦礫の後ろに跳び込む。
すでにギルが破壊していた柱も多くあったため、天井の崩落はかなりの広範囲に及んでいる。
俺なら容易にすり抜けられる瓦礫も、ギルの体格ではそうもいくまい。
『
だが、再びギルが必殺技を放つ。
「雷砲」で打ち出したハンマーを「雷砲」で逆方向へ打ち返し、そしてさらに「雷砲」へと繋げる――
「雷砲」を瞬間的に連続で繰り出すコンボ――これが「
まるで巨大な粉砕機だ。
倒れた柱も、落ちた天井も、紙吹雪のように吹き飛ばされる。
これではもはや障害物としての意味も成さない。
こんな技、常人が使えば両腕が引き千切られるだろうよ。
だがギルの身体強化された鋼の肉体ならば制御できるってわけかい。
まったくどこまでも人間離れした奴だ!
「無駄だと言ったはずだぞお嬢!!」
そしてギルは俺が隠れた大型の瓦礫をも打ち崩す。
だが、そこに俺の姿は無い。
俺はすでに、その瓦礫の上に倒れ掛かっていた柱の上部へと駆け上がっていたのだ。
俺が瓦礫に身を隠しても、先程の二の舞になるのは目に見えている。
ならわざわざ同じことをするはずがないだろう?
こうしてギルの裏をかく目算があるからこそ、ここに逃げたんだよ!
俺は柱の先端から飛んで宙を舞う。
「ル・ヴァルタ・ローグ・ロード 疾風の如く空を
そして即座に呪文の詠唱。
ギルはあの図体だ。
瞬間移動できるとはいえ、無暗に空中戦を挑んではこないだろう。
俺が空中に居るわずかな時間だが、こうして呪文に集中することができる。
ヴェロウヤブ教主のゴーレムと戦った時と同じ戦法だ。
『
炎の矢がギルを飲み込む。
中位の火炎魔法だが威力はかなり高い……少しは効いてほしいもんだ。
こんな状況では、このレベルの魔法が精々だぞ。
「こりゃ……なかなか効いたぜ、さすがはお嬢だ! だが残念だったな、それでもこのオレには届かん! そしてそう動きながらでは、これ以上の威力の魔法は使えまい? つまりいよいよ手詰まり、諦め時じゃないのかお嬢!!」
ハンマーを振りかざし、炎を搔き消したギル。
体には多少の焼け焦げた跡はあるものの、やはり決定打には至らなかった。
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