第166話 絶対格差 3

「ははっ! どーだ驚いたか? 魔法ってのはな、火力がすべてじゃないんだよ!」

 宿主の魔力を糧に増殖し、かつさらに魔力を吸い上げるために獲物を拘束する捕縛系魔法。

 正攻法で通じないならこういう変化球で攻めればいい!


「お嬢! まさかこんなオモチャでオレを捕らえられると思っているのか?」

 ギルはさらに上半身の筋肉を膨張させると、纏わりついた触手を引き千切る。

 魔力の供給源を失った触手は、ドス黒く変色しながら腐るように枯れていく。


 だがこれももちろん想定済みだ。

 そもそも低位魔法なのでそこまで拘束力は高くない。

 時間さえ稼げればいいのだ。

 すでにギルとの距離は十分に稼いだ。


「アルファティオンス・メルパティランス・イマージフ・ゼル・ゼア――」

 そしてここからなら高位魔法が詠唱できる。


 対魔法防御壁もなくリッチのように不死でもないギルでは、「極滅大紅蓮アーカーディア」の超高火力には耐えられまい!

 俺の高位魔法の前では、奴の身体強化魔法ですら無意味!

 これで決着をつけてやる!


 だがその時、ギルの全身が眩く光る。

 そして次の瞬間にギルの体が弾けた!


 いや、違う――ギルの居た地点から雷光が迸り、そして次の瞬間その巨体は俺の前方上空へと躍り出ていた。


「なっ――――」

「終わりだ! お嬢!!」

 ギルがハンマーを振り下ろす。


 俺は呪文をキャンセルし横に跳んで避ける。

 が、ギルの攻撃は軌道を変化させ俺の体を捕らえる。

 両腕でガードしたものの、弾き飛ばされた俺の体は床に数回バウンドする。


「ガハッ――!!」

 吐血……それに盾にした両腕がジンジン痛む。

 だが致命傷ではない。

 クリーンヒットは免れたおかげだ。

 俺は呼吸を整えながらゆっくりと立ち上がる。


「っておおっ?? あの攻撃を受けて立てるのかお嬢? というか本来生きているのも不思議なほどのダメージを受けたはずだぞ!?」

「ハッ! 生憎と俺様の身体強化魔法も上等なもんでね! それにお前が攻撃の軌道を変えたせいで威力が削がれたし直撃もしなかったからな。まぁ運が良かったってのは認めるが」

 俺は口元の血を拭いながら吐き捨てる。


「いや運で済ますなよお嬢! オレの攻撃は並の身体強化魔法程度で防げる威力じゃない! まったくどうなってるのか、つくづく殺すのは惜しい逸材だよ」

「あのな、むしろ驚いているのは俺の方だ! なんだあれは! 瞬間移動かテレポートか?」


 ギルの体が光った直後、奴の体は一瞬で数十メートル移動して俺の目前まで迫った。

 あれさえなければ俺の魔法は完成していたというのに!


「ガアッハハハ! 驚いたか? あれこそがオレの本来のギフトの能力“飛閃迅雷ひせんじんらい”よ! 己の体を雷と化し、百歩の距離を刹那に跨ぐ! 雷砲らいほうの能力はこれのおまけみたいなもんだ。オレはこの技を呪文を唱えずいつでも使うことができる。その意味が、その重要性が、お前にならわかるだろうお嬢?」


「――なるほど、これが魔法士が単体では勝てる可能性がゼロって話の根拠か!」

 俺は戦う前にギルが言った言葉を思い出していた。 

 あの時は深く考えなかったが、ここまで裏打ちされた話だったとは。


「そうだ、オレに通常の魔法は効かない! しかし詠唱に時間のかかる高度な魔法であっても、こうして瞬時に距離を詰め潰すことができる! これが魔法士単体ではオレに勝つことが不可能な理由だ!」

 ギルは吠えるように高々と宣言する。

 まるで俺にもう諦めろと言わんばかりに。


 たしかに、戦闘において間合いというのは最も重要な要素だ。

 ギル相手に近距離では勝負にならないが、かといって瞬間移動のせいで距離を取ることすらできないとは。

 つまり奴は常に自分が絶対的に有利な間合いを保つことができるということだ。

 おまけにこちらは実質攻撃が封じられるのに対して、ギルは雷砲によって一撃必殺レベルの攻撃を無制限に乱発できるときた。

 しかも仮に遠距離から高位魔法で攻撃できたとしても、事前に察知されれば瞬間移動で逃げられるんじゃないか?

 つまり奴の隙を突いて高位魔法を食らわせる必要がある。

 しかしそんな芸当が可能か?

 これじゃいくらなんでも分が悪すぎるぞ!


「なら……もう小細工は無しだ! また瞬間移動してくるがいい、今度は逃げずに正面から打ち砕いてやる!!」

 俺はガシッと胸の前で拳を合わせる。


「レギルトラスト・エルス・ド・メイス・アルティス 目覚めよ深淵 轟け叫号――」

 俺の持つ中位魔法の中でも威力が高く、迎撃に向く「龍牙爆裂砕ガルドライヴ」を両手に宿す強化版。

 これでギルを粉砕する!


「玉砕覚悟か! ならばこちらも大技を出させてもらおう!」

 再びギルが雷となり飛ぶ!

 だが今回の出現地点は俺の目の前ではない。

 数メートル程離れた斜め上空。


 そしてギルが構えたハンマーに、一際激しい雷光が渦巻く。

 あの構え……今までのように大きく振りかぶってのものではない。

 ほぼ直線的に俺を狙っている。


 つまり最大出力でハンマーを純粋な砲弾として打ち出すということなのだろう。

 どうやらこれで終わらせるつもりらしい。

 俺は全魔力を両腕に込める。


  『 龍 牙 爆 連 破パルドラス・ドライヴ !!』

  『 轟 覇 極 雷 突ごうはきょくらいとつ !!』


 俺が放つ炎の双龍とギルから放たれた光の砲弾!

 両者が激突し、天が割れるような爆発と地が引き裂かれるような破裂音が響く!


 その激しい力のぶつかり合いの末、ギルのハンマーの頭の半分が吹き飛んだ。


 いやもちろん、俺の体も吹き飛ばされる。

 床を数十メートルゴロゴロと転がり、柱に激突して止まる。

 そして――――


「あっ! あああああああっ!!!」

 両腕に激痛が走る!

 少なくとも……右腕の骨は折れているだろう。

 左腕もほとんど力が入らない。


 この状態では、高度な魔法を使うのも不可能!

 まさに絶体絶命――か!?


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